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西大寺金堂院の発掘調査(平城第660次)

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写真1 西大寺金堂院の西面回廊(北西から)

 都城発掘調査部(平城地区)では、2024年3月から6月にかけて、西大寺金堂院の発掘調査をおこないました。西大寺は天平神護元年(765)に称徳天皇によって、平城京右京の地に造立された天皇勅願の寺院です。金堂院は仏像が安置された金堂と、それを回廊で区画した範囲であり、奈良時代の西大寺の中心部分にあたります。今回の発掘調査は、奈良市西大寺小坊町の駐車場造成に先立って実施しました。工事にともなう掘削がおこなわれる範囲のうち、掘削深度が遺構面に達することが想定される範囲を中心に調査区を設定しました。調査の範囲には、西大寺金堂院西面回廊の想定位置を含むことから、西面回廊の位置と構造をあきらかにすることを目的とした調査をおこないました。あわせて、西大寺金堂院の中軸部分の遺構の有無を確認するための調査も実施しました。調査面積は約490㎡です。

 調査の結果、西大寺金堂院の西面回廊を確認し、基壇と建物の規模と構造を確定しました(写真1)。西面回廊は梁行2間の複廊で、桁行5間分を検出しました。基壇の規模は幅約11m(37尺)です。回廊の規模は桁行、梁行ともに約3.6 m(12 )等間であることがわかりました。また、西面回廊の礎石据付穴は、場所によって深さが異なることを確認しました。同じ建物の一部ですが、南では礎石据付穴の掘方が深く、軟弱な地盤に対し壺地業をおこなった可能性があります。また、基壇土内では回廊を東西に横断する石敷を検出しました。石敷きの機能は検討中ですが、類例がほぼ同じ時期に造営されたとされる西隆寺の金堂院の回廊で見つかっています。さらに、西大寺金堂院の中軸線上で、灯籠の痕跡とみられる土坑を検出しました(写真2)。部分的に磚が並んで見つかっており、土坑は磚列によって四角く囲われていたと想定できます。西大寺金堂院で灯籠の痕跡が発見されるのは初めての成果です。

 202458日と、67日には地元の住民の方々に向けた発掘現場の公開をおこない、調査の様子を間近でみていただくことができました。平日にも関わらず現地に足をお運びいただきありがとうございました。

 調査は終了いたしましたが、報告書の作成に向けた遺物の整理をおこなっています。今回得られた成果をもとに、西大寺金堂院の造営の実態に迫りたいと考えています。今後の研究成果にご期待ください。

news93-5-2.jpg                    写真2 灯籠の痕跡(北から)           

(都城発掘調査部研究員 浦 蓉子)

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