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文化遺産に対する国際協力のひとつのかたち~カンボジア事業30年を経て~

写真1 西トップ遺跡3祠堂修復完了の様子

奈文研のカンボジア事業のはじまり

 今から33年前の1991年10月、カンボジア内戦を終結させるパリ和平協定が締結されました。内戦時代には数多のカンボジア国民が命を落とし、その中には文化財関係者も多く含まれていました。内戦終結から2年後の1993年、奈良文化財研究所はカンボジアの文化復興に対する国際協力の一環として、アンコール文化遺産保護に関する共同研究事業を開始しました。

西トップ遺跡3祠堂修復完了

 奈文研は以来カンボジアとの共同事業を継続し、現在はアンコール遺跡群内の西トップ遺跡において調査修復事業を続けています。南祠堂、北祠堂、中央祠堂と調査修復作業を展開し、ついに西トップ遺跡の3祠堂の修復作業が完了しました(写真1)。まだ中央祠堂正面に位置する仏教テラスの修復が残っていますが、大きな区切りとなりました。

コロナ禍で起きた変化

 思い返せば、コロナ禍を挟んでの足掛け12年、日本人が現地に渡航できない期間も長く、どのように事業を進めるか模索する日々もありました。しかし、オンラインで現地調査員と作業内容や方針についての話し合いを重ねるうちに、徐々に方向性がつかめました。それは、相互に信頼関係が築けていたからこそ始まった流れなのですが、はじめに現地スタッフが作業員さんたちと現場作業について話し合い、その結果をもとに私たち日本側とオンラインでミーティングをするという流れです。これによって、コロナ以前と比べると現地スタッフたちがより自主的に考える機会が多くなったように感じます。奈文研はカンボジア事業を開始した際、文化財に係る人材養成を一つの大きな目標としていましたが、その一つの形が見いだされつつあるように思っています。

30年間の交流

写真2 若手考古学者招へい研修の様子

 もう一つ、奈文研が取り組んできたカンボジアの人材養成プログラムがあります。それは若手のカンボジア人考古学者を日本に招聘し、奈文研が培ってきた考古学調査に関する技術やノウハウを学んでカンボジアへ持ち帰っていただくというプログラムです(写真2)。その招聘研修の第1回は、ちょうど今から30年前、1994年10月4日から開始されました。当時招聘された2名の第1回研修生のうち、1名は現地のアンコール遺跡管理組織APSARAの副総裁に、もう1名は文化芸術省の幹部となっています。2期生以降も現地の文化芸術省やAPSARAなどで現役として活躍中の方が多く、この30年間の人材交流が現在のカンボジア事業の礎となっています。これからもカンボジアの方々との交流を大切にしながら調査を進めていきたいと思います。

(企画調整部主任専門職 佐藤 由似)

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