なぶんけんブログ|奈良文化財研究所に関する様々な情報を発信します。

巡訪研究室(24)企画調整部 文化財情報研究室

 文化財情報研究室(以下、情報研究室)の主な業務をご紹介します。

 奈良文化財研究所(以下、奈文研)には、全国の文化財に関する情報を収集し、整理し公開する役割があります。奈文研内でも発掘調査や研究の過程で情報は蓄積されていきます。そのため、情報研究室はそれらの多様なデータを安全に管理し、整理して公開できるよう支援しています。さらに、一部の研究者だけでなく、国外の研究者や地方公共団体の文化財担当者、一般の方にもデータを利用しやすい環境づくりを目指しています。情報研究室の所管業務には、①全国の⽂化財・遺跡情報の集約と発信、②所内資料のデジタル化、③各自治体の文化財担当者への研修、④文化財デジタルデータの研究利用と展開、⑤文化財情報の多言語化があります。

①全国の文化財・遺跡情報の集約と発信
 奈文研では多くのデータベースを管理・運営していますが、ここではとくに情報研究室と関わりが深いものを紹介します。これらはすべて、考古学や文化財の専門家だけではなく、他分野の研究者や一般の方も利用することができます。
 遺跡データベースは、全国の遺跡情報を集約しているデータベースです。1988年より不動産文化財データの全国センターシステムの一部として構築が計画されていたもので、約19万件は1996年11月上旬に公開となりました。現在は48万件のデータが登録されています。抄録データベースは、発掘調査報告書の巻末に掲載される調査報告書の書誌情報と、遺跡情報、調査内容をそれぞれ要約した「抄録」のデータベースです。発掘調査報告書を作成した各機関がwebを通じて奈文研の登録用システムに登録していくことにより、抄録は順次追加されています。なお、2019年6月、抄録データベースは全国遺跡報告総覧へデータをすべて移行・統合することで、利便性が向上しました。
 全国遺跡報告総覧では、文化財報告書の全文検索とPDFダウンロードが可能です(PDF登録があるものに限る)。上記の他、文化財動画ライブラリー・文化財イベントナビ・文化財論文ナビでは、報告書PDFに限らず、動画・イベント・論文を利用者の関心やテーマに合わせて検索できます。
 2021年7月には、文化財総覧WebGIS(以下、総覧GIS)を公開しました。全国61万件の文化財データを総覧GISで表示し、より身近に文化財の存在を知ることができるようになりました。


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例)平城宮跡の発掘調査平面図上(造酒司井戸付近)に「酒」文言を含む木簡とその出土位置を重ねた画面


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皇居、赤坂周辺(東京)の文化財分布状況


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総覧GISに登録されている文化財データの分布状況


② 所内資料のデジタル化
 情報研究室では図面など調査記録類の電子化およびアーカイブも進めています。昨今はセキュリティ対策が非常に重要となるため、奈文研としてのすべての調査記録類のデータをデータベースプラットフォームに集約しています。デジタルデータの保管については、研究支援推進部連係推進課文化財情報係とともに、ホットデータ(活用頻度が高い・小容量)とコールドデータ(活用頻度が低い・大容量)に区分して保存先を変えることにより、データを効率的に保管しています。

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図 リスクと対策案(文化庁『埋蔵文化財保護行政におけるデジタル技術の導入について 1』(報告))より転載


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図 奈良文化財研究所での運用例


③ 各自治体の文化財担当者への研修
 情報研究室で獲得したノウハウは各自治体の文化財担当者への研修で発信しています。情報研究室は隔年で文化財デジタルアーカイブ課程と遺跡GIS課程を開講しています。所員とGIS、オープンデータ、文化財の著作権処理などの各分野に精通した外部講師らによって練られたカリキュラムが毎年好評です。これまでの研修資料は奈文研研究報告『デジタル技術による文化財情報の記録と利活用』として3冊を刊行し、Web上でも公開しています。

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文化財デジタルアーカイブ課程の研修の様子(報告書電子化実習で書誌情報を整理中)※2020年1月撮影


④ 文化財デジタルデータの研究利用と展開
 奈文研は文化財のナショナルセンターとして、外国との情報収集・情報提供を重要視しています。EUでは、2019年から多国間での考古学情報を統合し、相互連携によって多くの人が情報にアクセスしやすくするシステムの構築を目指して「アリアドネプラス」というプロジェクトを進めており、奈文研もこれに参加しています。文化財専門語彙の言語間における比較やデータ連携の準備が進んでおり、より積極的に日本の文化財情報を外国に展開することを目指しています。

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アリアドネパートナーと ※2019年2月撮影

 文化財情報を利用する上で欠かせないのが知的財産に関する理解です。コンテンツが重要になっている時代にあっては、文化財専門家も知的財産権に関する知識が必要です。発掘調査報告書には著作権が設定されていますが、正しい知識があれば、調査機関はデータの公開・活用範囲を今まで以上に広げ、より多くの人が再利用しやすい形でデータを提供でき、市民による活用が促進されます。


⑤ 文化財情報の多言語化
 多言語化とは、簡単に言うと日本語を読むことができない、または得意としない方に奈文研の研究成果を発信する仕事です。例えば、データベース・Webサイトの翻訳、展示室・資料館の解説や図録の翻訳、論文要旨の校正と校閲(原稿の事実確認や不備がないかを調べ修正する作業)、文化財関連用語シソーラスの作成などがあります。また、担当者自らも業務において蓄積したノウハウを共有し、積極的に広めようとしています。2021年3月に出版された『文化財多言語化研究報告』では、中韓英の対訳集、ベストプラクティスや翻訳に関する論文などを掲載しています。


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木簡リーフレットの英中韓パンフレット。デザインやコンセプトを言語ごとに変えています。


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奈良国立博物館・京都国立博物館・奈良文化財研究所による多言語事業意見交換会の様子 ※2019年8月 開催


社会や技術の変化によって、文化財情報のあり方は時代によって変わります。一方、文化財を未来に継承していくという使命には変わりはありません。どうすれば、新技術を適切に取り込んで、文化財の継承に資することができるか、情報研究室では日々考え、実践しています。

関連リンク

■遺跡データベース https://www.i-repository.net/il/meta_pub/G0000556remains
■抄録データベース https://sitereports.nabunken.go.jp/ja/search-site
■全国遺跡報告総覧  https://sitereports.nabunken.go.jp/ja
■文化財総覧WebGIS  https://heritagemap.nabunken.go.jp/
■ARIADNEplus  https://ariadne-infrastructure.eu/
■デジタル技術による文化財情報の記録と利活用  https://sitereports.nabunken.go.jp/33189
■デジタル技術による文化財情報の記録と利活用2  https://sitereports.nabunken.go.jp/69974
■デジタル技術による文化財情報の記録と利活用3  https://sitereports.nabunken.go.jp/90271
■文化財多言語化研究報告  https://sitereports.nabunken.go.jp/90286


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