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巡訪研究室
(15)埋蔵文化財センター 年代学研究室

 みなさんは、木を顕微鏡で見たことがありますか? 下の写真は、木を輪切りにした面の顕微鏡写真です。普段、身近にありふれている木が、このように細胞がきれいに整然と並んでできていることに驚かされます。

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木質遺物の顕微鏡写真

 木の年輪が、1年に1層ずつ形成されるものだということは、比較的認知度の高いもののようです。年輪は、暑かったり寒かったりといった気候の影響などを受けて、年ごとに広かったり狭かったりします。この変動を、過去にさかのぼって調べていくと、木造文化財に使われた木に刻まれる年輪が何年に形成されたものなのか、1年の精度で誤差なく明らかにすることができます。例えば、大阪府にある史跡・池上曽根遺跡から出土した大型建物の柱根について1990年代におこなわれた調査では、当時の弥生時代の年代観について再考を促すような年輪年代測定成果が得られました。また、近年では、世界遺産古都奈良の文化財の一部でもある国宝薬師寺東塔の解体修理にともない実施した調査で、天平2年(730)に東塔が建てられたとする『扶桑略記』などの記述と非常に整合性の高い年輪年代測定成果が得られ、薬師寺東塔に使用されている主な木部材が平城遷都後に伐採・調達されたものであることが明らかとなりました。
 
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研究室での年輪計測・年輪曲線照合 薬師寺東塔における調査

 年輪年代測定を文化財に応用していくためには、年輪の形成された年が明確な現生木からさかのぼった年輪変動のデータを蓄積する必要があります。そのため当研究室では、文化財ではなく自然史標本の範躊に入るともいえる年輪年代学用の木材標本を、多数収集しています。年輪の変動から過去の気候変動を復元する研究や、各地域からの木材標本を収集し、地域ごとの年輪変動をもとにした木材の産地推定をおこなうための基礎研究も進めています。
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現生木材標本の収集

 木は、私たちにとってとても身近な素材であるため、木器、建造物部材、木彫像など様々な形で文化財として残っています。しかし、当たり前のように身近にあるためか、その科学的な基礎知識の浸透が不十分で、木造文化財を担当する際にどのように取り扱ってよいのかよくわからない、という声をよく耳にします。そこで、木造文化財を調査する際に必要となる木材科学、年代学、保存科学などの科学的な基礎知識を習得し、担当現場に生かすことを目指す研修などを実施しています。

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木材科学に関する研修

 年輪年代測定では、概ね100層以上の年輪を有する試料を対象とするのが一般的で、年輪数が少ない小型の木製品にその手法が適用される機会は必ずしも多くありませんでした。一方、近年の成果として、一括性の高い試料群を対象とすることにより、その試料群の同一材の推定ができる事例が増加してきました。このような背景のもと、平城宮・京跡から膨大に出土する木簡を対象とするなど、年輪年代学の多角的な応用を進めています。木簡を対象とした年輪年代学的検討により、木簡やその削屑の同一材関係や、刻まれる年輪の新旧関係を明らかにすることができ、その成果に基づく木簡の接合検討をおこなうことで、例えばこれまで断片的な文字として認識されていたものが、単語や文として意味を持つものになるなど、木簡から引き出される情報の増大につながることが期待されています。

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木簡を対象とした年輪年代学的検討用撮影

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