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巡訪研究室(13)飛鳥資料館 学芸室

 飛鳥資料館は、飛鳥地域の歴史や文化を紹介する展示施設として、1975年(昭和50)に開館しました。展示室は3室からなり、一階の第1展示室では飛鳥地域の歴史をテーマ別に展示し、第2展示室では山田寺東回廊の建物を中心に山田寺の出土品(重要文化財)を紹介しています。地下の特別展示室では、年に4回ほど、特別展・企画展も開催しています。
 また、飛鳥資料館から4kmほど離れたキトラ古墳壁画保存管理施設(「キトラ古墳壁画体験館 四神の館」1階)では、文化庁から委託を受けて、施設の管理・運営と壁画公開事業などを、奈文研の他の部署とともにおこなっています。
 ここでは、飛鳥資料館の来館者からよく寄せられる質問に答えながら、飛鳥資料館での学芸室の仕事を紹介します。なお、「四神の館」での学芸室の仕事については別の回で紹介したいと思います。

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飛鳥資料館の外観

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第一展示室



―飛鳥資料館の展示は、どうやってつくっていますか?
 学芸室の4名の研究員を中心に、庶務室や補佐員などのスタッフと協力しながら、展示をつくります。ひとくちに「展示をつくる」と言っても、企画立案、展示する資料の調査、広報、図録の作成、陳列作業、来館者への展示解説など様々な仕事があります。学芸室の業務は、収蔵品の保存管理や、他館との資料の貸借など多岐にわたりますが、その中でも展示に関わる仕事は大きなウェイトをしめます。

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特別展に向けた古地図の調査

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特別展会場の陳列作業も研究員がおこないます



―常設展は、ずっと同じものを展示しているのですか?
 常設展は、最新の文化財調査成果を反映できるように、展示資料や解説を少しずつリニューアルしています。飛鳥資料館が開館してから40年余り経ちますが、この間に発掘調査では教科書を書き換えるような大発見も相次ぎ、日本の古代国家誕生の歴史の詳細が明らかになってきました。こうした調査成果にも目を配り、常設展もバージョンアップしていくように日々心がけています。近年では、飛鳥地域の古墳を紹介するコーナーや宮殿コーナーの展示などをリニューアルしました。

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リニューアルした古墳コーナー(第1展示室)

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常設展の展示作業



―山田寺の東回廊は本物ですか?
 来館者の方に驚かれることが多いのですが、連子窓や柱などの焦げ茶色の部材は、すべて出土した本物の資料です。現場から出土した部材を保存処理し、実際に建っていた当時の形に組みなおして展示しています。山田寺の発掘調査では、建築部材をはじめ寺院に関わる資料が大量に出土しました。展示品以外の出土品は、温湿度などの環境を整えた収蔵庫で保管しています。このように収蔵品を適切に整理・保存しながら、必要に応じて展示などに活用していくことも私たちの大切な仕事です。

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山田寺東回廊

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収蔵庫の温湿度データ収集作業



―飛鳥資料館は子供も楽しめますか?
 飛鳥資料館には、遠足などでたくさんの子供たちが来館するので、楽しく歴史を学べるコンテンツをつくるのも私たちの仕事です。最近では、見学時のサポートとなる子供向けのパンフレットをつくりました。クイズやスケッチをしながら展示品をじっくり見て、飛鳥の歴史に親しめるように、内容やデザインにもこだわりました。ぜひ使ってみてください!
 また、小さな子供たちが飛鳥の歴史に親しめるように、図書閲覧室には展示品にちなんだ「彩る歴史―飛鳥資料館ぬりえ―」も用意しました。子供向けのパンフレットやぬりえは、ホームページの「おうちで飛鳥資料館」からもダウンロードできます。ぬりえを完成させて受付に持ってきてくれた方にはプレゼントもありますので、ぜひチャレンジしてみてください。

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子供向けのパンフレット
自分のペースでじっくり展示を楽しめます

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彩る歴史―飛鳥資料館ぬりえ―
猿石のぬりえは、色を塗った後に組み立てると、両面の顔が見えるようになっています



―展示を見る以外に、飛鳥資料館の楽しみ方はありますか?
 特別展や夏休みに合わせて開催しているイベントがオススメです。最近では、飛鳥時代の古墳から出土した玉枕をミニチュアサイズでつくる夏休みのイベントも人気です。今年は新型コロナウイルスの感染拡大防止のためにイベントの開催は難しい状況ですが、終息後にむけて企画を練っているところです。
 また、歴史に親しむきっかけを増やしたいと、オリジナルグッズの製作にも力を入れています。研究員のこだわりや文化財調査の視点を活かした、奈文研ならではのグッズにしたいと考えて企画開発しています。 こうした教育普及活動も、飛鳥の魅力を広めるための大切な仕事と考えています。

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玉枕イベントは子供にも大人気

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これまで製作したオリジナルグッズ



―外国人向けの対応はしていますか?
 現在、案内板や展示パネル、配布資料などの多言語化を進めているところで、展示のコーナータイトルや館内サイン、パンフレットは基本的に日英中韓の4ヶ国語表記を用意しています。学芸室に外国人スタッフはいないので、奈文研の平城地区にいる多言語化対応専門の研究員と協力して作業をしています。今後も、海外の方にも飛鳥の歴史を楽しんでいただけるように、様々な取り組みをしていきたいと思います。

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館内サイン

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コーナータイトル



―学芸室の仕事をしていて、やりがいを感じることは何ですか?
 来館者の反応を聞くことです。同じ資料でも、展示の手法によって、見る人に伝わるメッセージは変わると思っています。「一人の来館者が一つの資料を見る短い時間の中で、その資料がもつ魅力をきちんと伝えるにはどうしたらいいのか?」ということを意識し、資料を置く場所、解説パネルの言葉遣いや文字の大きさ・字体などを検討しています。学芸室のメンバーで考え、意見を出し合い、たくさん悩みながら展示をつくるため、来館者が見学を楽しんでいる姿や、「わかりやすかった」などのコメントが書かれたアンケートを見ると、とてもやりがいを感じます。

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展示パネルの確認作業
学芸室の研究員総出で内容を確認します

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展示解説
来館者とのやりとりも大切にしています



―学芸室の仕事で難しいと感じることは何ですか?
 展覧会やイベントなどの情報を広く発信し、多くの方へ情報を届ける広報活動に試行錯誤しています。これまでも、広報物を作成・配布したり、特別展にあわせてマスコミ各社に記者発表をしたり、地域の情報誌に展示情報を提供したりしてきました。さらに近年では、特別展のポスターを目に止まるようなデザインにしてイメージアップを図ったり、チラシの配布場所を調整したりするなどの工夫もしています。また、ホームページやSNS、自治体の広報誌など、様々な媒体を用いることで、少しでもたくさんの方に確実に情報を届けられるように努めています。

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明日香村内に掲示された飛鳥資料館(左)と
キトラ古墳壁画保存管理施設(右)のポスター

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リニューアルした飛鳥資料館ホームページ



 飛鳥の歴史は、日本の国の歴史、そして東アジアを中心とする世界の歴史につながっています。飛鳥や歴史が好きな人はもちろん、たまたま観光や遠足で来た人にも、飛鳥の歴史と文化の豊かさを、飛鳥資料館で気軽に楽しんでもらえたらと思います。今後も、地域と協力しながら飛鳥の研究を進め、より豊かな展示活動をおこなっていきますので、ぜひ飛鳥資料館にご来館ください!

※飛鳥資料館の展示内容などは、飛鳥資料館ホームページで紹介しています。ブログなども更新していますので、ご覧ください。


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