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巡訪研究室(7)都城発掘調査部(平城地区)考古第二研究室

土器は生活に密着した道具
 都城発掘調査部平城地区の考古第二研究室は、平城宮跡や平城京跡の調査で出土した土器や土製品の調査、研究をしています。プラスチックやビニールなどの素材がない時代、人々は土器を使っていろいろな生活道具を作りました。奈良時代には、やや低い温度で焼かれた土師器と、窯を使って高い温度で焼かれた須恵器の2種類の土器が使われていました。これらは食器でもあり、水などを貯蔵する容器や料理を作る調理具でもありました。時には硯(すずり)や祭祀具(さいしぐ)、おもちゃなども焼き物で作りました。このような土器・土製品の使い方がわかれば、当時の人々の生活をよりリアルに知ることができるのです。


年代をはかる「ものさし」づくり
 発掘調査で土器の研究が果たすべき重要な役割のひとつが年代を決定することです。土器は作られた時代や年代によって、形や大きさ、製作技法が微妙に異なります。出土した土器が作られた年代がわかれば、地層の年代や遺構の年代を考える有力な手がかりになります。そのため、私たちは、日々「ものさし」の精度を上げるべく研究に励んでいるのです。


土器の研究は、水洗いから始まる
 発掘現場から出土した土器は、どこから出土したかを書いたカードと一緒に研究室に届きます。このカードと離れてしまわないように、気をつけながら、土や泥のついた土器を水で洗うところから研究がスタートします。洗うときも、漆や炭化物が付いていないか、注意しながら慎重に洗わなければなりません。土器の使い方がわかるような痕跡が付いているかもしれないからです。洗った土器は乾かして、発掘現場で書かれたカードに記された出土地点や出土日を小さな字で書き込みます。

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  写真1 瓦磚以外のさまざまな「焼き物」が研究対象

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  写真2 1日の始まりは土器の洗いから

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  写真3 水に溶けないカードは出土状況のデータを記録した大切な情報

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写真4 土器に出土地点の情報を小さな字で書き込む

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写真5 約60年の発掘調査で出土した土器の記録台帳

 土器をくっつける作業は、まるで三次元パズルのようです。破片が足りない部分は、石膏などで埋めて彩色します。ある程度の大きさに復元できた土器は、実測図を作成します。この実測図を見れば、研究者はどのくらいの大きさなのか、この土器がどのように作られたのかがわかる、いわば、土器の設計図のようなものです。また、土器のなかには、墨で字が書かれた土器や、唐や新羅などの外国から運ばれた土器もあります。こういう特殊なものについては、データベースに登録していきます。
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写真6 割れた土器を接合して、石膏やセメントで足りない部分
を補う

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 写真7 土器を実物大の図面(実測図)に描く

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写真8 実測図をデジタルでトレースする

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写真9 特殊な遺物は写真を撮ってデータベースに登録する

考古第二研究室はおもしろい個人研究の宝庫!
 平城京からは、食器ばかりでなく、さまざまな道具として作られた土器・土製品も、たくさん出土します。平城地区の考古第二研究室に所属する研究員は、4人。平城宮跡に関する調査以外に、それぞれ土器・土製品に関するおもしろい個人研究もおこなっています。ニックネームをつけながら、その研究について紹介していきましょう。"埴輪コレクター"の大澤さん。古墳の年代を検討するために、奈良市にあるウワナベ古墳から出土した円筒埴輪を組み立てています。その数、なんと100本! "めざせ!遊戯王"の小田さんは、奈良時代の官僚が、土器を遊具に転用して遊んでいたことを発見しました。最近は、その遊具に使われていたと考えられる木製のサイコロ?を探しているようですよ。"型にはまらない鋳型研究者"の丹羽さんは、古代の金属製品を作るのに使われた鋳型(いがた)を研究しています。実際に金属を鋳型に流す実験もやっています。最近、火遊びが過ぎるのは"火付け人"の神野さん。灯明皿に火をつけて煤のつき方などを実験しています。

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写真10 平城京内には古墳がたくさんあり、埴輪も多く出土する

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写真11 韓国のユンノリに似た盤上遊戯は奈良時代には
「かりうち」と呼ばれた

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写真12 冶金に使われる鋳型やさまざまな道具が土製で作られた

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写真13 煤や油がついた灯明皿は古代から近世までたくさん出土する

 考古第二研究室では、これからも土器・土製品の研究を通じて、古代の人々の生活に密着した研究を進め、現代の私たちの素朴な疑問に答えるような研究を積み重ねていきたいと思っています。
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写真14 たくさんの土器に囲まれながら日々土器の研究をして
います

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写真15 考古学を勉強する学生さんたちの助けを借りながら



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