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(196)土器発明の謎

使用法分析 解明の手がかり

 粘土を焼くことで、硬くて水に溶けないものを作り出せることを、人類は2万6000年前には知っていました。最古例は、東欧のチェコで見つかった粘土を焼いて作ったビーナス像です。しかし、土器、すなわち土を焼き固めた容器は、その後6000年もの間、世界中のどこにも現れませんでした。

 粘土で好きな形を作り、それを焼いて新たな素材を作る方法を知っていながら、人類は土器を作らなかったのです。長い間、考古学上の謎のままです。

 日本の縄文土器は、世界的にみても最古級の土器です。以前は、ドングリや貝の加工のために、土器が作られ始めたと考えられてきました。しかし縄文時代の始まりは、氷河期。ドングリはほとんどなく、貝塚もこの時期にはまだ見られないことが明らかになってきました。これでは説明がつきません。

 近年、土器に染み込んだ有機物を分析する技術が飛躍的に進みました。日本の縄文土器に応用した私たちの研究により、古い時期の縄文土器は、魚など水産資源の加工に用いられたことがわかりました。混ざり合った複数の化合物を分離するガスクロマトグラフィーの分析方法によって、水生生物に特徴的にみられる化合物が集中的に検出されたのです。

 なぜ水産物なのか、理由ははっきりとしませんが、土器が何に使われたのかを直接調べることができるようになったのは、考古学研究の大きな進歩と言えるでしょう。土器が生まれた謎に、一歩近づく手がかりになりそうです。

 

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土器が調理に使われた様子を再現したジオラマ=新潟県立歴史博物館提供

(奈良文化財研究所主任研究員 庄田慎矢)

(読売新聞2018年7月17日掲載)

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