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(192)歴史の面影

「法華寺の鳥居」の痕跡

 奈良市に住んでいれば、この写真の木に見覚えのある方がいるのではないでしょうか。写っているのは、太いセンダンの切り株です。国道24号と一条通りの交差点の西南の隅にあります。昭和30年代に枯れたとのことですが、以来、半世紀以上にわたって、所有者の手で大切に守られてきました。

 この場所は、室町時代の絵図によれば、石塔があったそうです。私はここが平安時代~鎌倉時代に、「法華寺の鳥居」と呼ばれた鳥居があったところだと考えています。その頃の人たちが書いた記録によると、京都から奈良に来る際には、法華寺の鳥居で一休みし、身支度を整えたなどとあります。おそらく、現在の24号と同じルートで奈良山を越えて、ここで東に曲がって、一条通りに入ったのでしょう。

 世の中には、見過ごしそうな小さなものにも、実は古い歴史が隠されていることがあります。特に奈良の場合は、昔のことを記録した古文書がたくさん残っています。私は奈良文化財研究所で、そういう古文書を調べることを仕事にしています。

 古文書を読んでいると、時々、路傍の小さな野神様や細かい地割りなどに、深い歴史を感じることがあります。

 

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鳥居があったと考えられる場所に残るセンダンの切り株(奈良市で)

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(奈良文化財研究所歴史研究室長 吉川聡)

(読売新聞2018年5月15日掲載)

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