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(184)「埋蔵」文化財の保存

地下水位 定期チェック

 平城宮(奈良市)の発掘調査では、小さな木簡から大きな建築部材まで、奈良時代の姿を驚くほどよく残した木製品が出土します。

 こうした木製品は、地下水をたくさん含んだ状態で形を保っていますが、粘土層の中に密閉されたことで、菌や紫外線から守られ、現代までその姿が保存されてきました。いわばレトルト食品のパックのように、緻密な粘土が酸素の供給や光を遮り、1300年もの間、木材を劣化による消滅から守ってきたのです。

 もちろん、木製品だけでなく、遺跡で見つかる様々な材質の文化財は、みなこうした「パック」によって守られてきたといえます。

 しかし、食品のパックに小さな穴があいたら、中身を長期間保存できなくなるように、遺跡でもわずかな環境の変化が、埋蔵された遺物の劣化に大きく影響します。奈良文化財研究所では、平城宮跡の地下水位を定期的にチェックしているほか、人工池をつくって適切な埋蔵環境の保全に取り組んでいます。

 平城宮跡の地下には、まだたくさんの文化財が眠っています。発掘された文化財の保存・修復方法の開発はもちろん、埋蔵(されたままの)文化財をより安定して保存するための研究も、奈文研の重要な仕事の一つなのです。

 

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出土した柱の根元。粘土層に守られて現在まで残った=奈良文化財研究所提供

(奈良文化財研究所埋蔵文化財センター研究員 松田和貴)

(読売新聞2017年12月19日掲載)

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