なぶんけんブログ|奈良文化財研究所に関する様々な情報を発信します。

(175)保存状態の記録

 文化財写真 修整は禁物

 いつでも誰でも美しい写真を撮影し、楽しく共有できる......。いま流行のスマートフォン(スマホ)を使えば、これまでには考えられなかったような写真が簡単に撮れる時代になりました。みずみずしく美しい肌や、楽しいイラストを自動で配置してくれるアプリまで登場し、写真文化はかつてない広がりを見せています。

 文化財カメラマンである私も、以前は人物写真専門の「商業写真館」に勤務していました。そこでは、お客様に喜んでもらうため、顔の見栄えをよくする加工、今で言う「美肌」に仕上げる修整が古くから行われてきました。

 でも、文化財写真に修整は禁物です。文化財写真の場合は、文化財がもっている質感や外観、保存の状態をありのままに伝える事が大切です。たとえば、写真のような土器の表面のハケメの痕跡。この痕跡を「美肌」に修整してしまうと、土器づくりの大切な情報が失われてしまいます。文化財のつくり方や、文化財の保存状態を伝えるのも写真の重要な役目の一つです。

 デジタル技術の普及によって、誰でも簡単に写真の修整ができるようになってきましたが、文化財写真では、ありのままの姿を正確に記録して後世に残すことが大原則なのです。

 

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「美肌」に修整した手(左上)と修整前(右上)。土器の表面(下)など文化財の記録では、修整は禁物だ

(奈良文化財研究所専門職員 中村一郎)

(読売新聞2017年7月4日掲載)

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