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(171)花粉は語る

古代の甘樫丘 やっぱりカシが

 今年も花粉症でお悩みの方は多いと思います。現代では憎まれ役の花粉ですが、実は、考古学者にとっては力強い味方です。

 明日香村にある甘樫丘(あまかしのおか)は国営公園として親しまれていますが、この丘の東麓部を、奈文研が継続して発掘しています。ここでは7世紀前半~中頃の建物跡などが見つかり、「日本書紀」の記述に照らし、蘇我氏の邸宅との関連が推測されています。

 2011年から翌年にかけて行われた発掘調査では、谷底の付近を調査し、建物群や炭だまりのほか、谷の方向に沿った石敷き溝を検出しました。この溝はきめ細かな土で埋まっており、花粉の残りが良いことが期待されたので、この土に含まれる花粉を調べることにしました。顕微鏡で一つひとつの花粉を同定し、数を数えるという、とても地道な作業です。

 分析の結果、遺跡が形成される以前・以後ともに、コナラ属アカガシ亜属の花粉が多く認められました。甘樫丘には、やっぱりその名の通りカシの木が生えていたのです。さらに、ソバ属やベニバナ属などの栽培植物の花粉も見つかったことから、周辺でこれらの植物を栽培していたこともわかりました。

 花粉のように目に見えない微細なものから、遺跡をとりまく自然環境が復元できるのです。

 

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アカガシ亜属の花粉の顕微鏡写真(上中央子撮影)

(奈良文化財研究所主任研究員 庄田慎矢)

(読売新聞2017年4月18日掲載)

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