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(167)被災資料が伝える教訓

物だけでなく情報も守る

 東日本大震災から昨日でちょうど6年。津波被害にあった博物館などでは、被災地の方々や全国の関係者によって文化財の修復事業が今も続けられており、多くの被災文化財がよみがえりました。

 しかし、未(いま)だに泥の中から救出されたままの状態の文化財があります。それは、発掘調査で出土した貴重な土器、石器、動物の骨などの考古資料です。これらは遺跡名や出土地点が書かれたラベルと共に保管されていましたが、津波によりラベルは劣化し、資料台帳も流失してしまいました。

 考古資料は、何が、いつ、どこから出土したのかという出土情報がとても大切です。ラベルは資料一つ一つの身元を示す「住民票」、資料台帳は「住民台帳」のようなもので、資料を整理・分析する上で欠くことのできない重要な歴史情報です。こうした「情報」を万一の災害から守るために、台帳を複製したりデジタルデータ化したりして、それぞれ別の安全な場所に分けて保管する必要性を改めて感じました。

 昨年も熊本や鳥取で地震があったように、近年各地で災害が頻発しています。文化財を災害から守るには、モノ自体の救出だけでなく、「情報」の消失を防ぐこともとても大切なことです。

 

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津波により「情報」が消えかかる被災した考古資料(左)と現地での救出作業(右)

(奈良文化財研究所アソシエイトフェロー 松崎哲也)

(読売新聞2017年3月12日掲載)

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