平城宮貴族が始まり
みなさんいつも何を使って食事をしていますか?
箸、スプーン、フォーク......。いろいろありますが、一番使うのは箸ではないでしょうか。
実はこの箸、お隣の中国から飛鳥時代に伝わってきたもので、遣隋使が持ち帰ったともいわれています。では、それまではどうやって食事をしていたのでしょうか?
答えは「手」です。弥生時代の終わり頃の中国の書物に、日本人は手で食事をすると書かれていますから、箸が伝わる前は、基本的に手づかみで食べていたのでしょう。その証拠に、弥生時代や古墳時代の遺跡からは箸は見つかりません。
箸を使う食事法は奈良時代頃に本格化したようで、平城宮跡(奈良市)からは箸がたくさん出土します。でも、平城宮の外ではほとんど見つからないことから、どうやら箸の使用は平城宮の貴族や役人たちから始まったようです。
ところで、奈良時代の箸は両端が同じ太さでした。先細りの箸を使い慣れた私たちには使いにくそうにみえます。やがて奈良時代の終わり頃になると、先細りの箸が登場し、各地で出土するなど、一般の人たちにも箸が急速に普及していきました。
今当たり前の食事風景は、こうして少しずつ出来上がっていったのです。
(奈良文化財研究所研究員 芝康次郎)◇イラスト・岡本友紀
(読売新聞2017年2月26日掲載)