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(160)キトラ古墳の壁画

「壊さず、触らず」状態調査

 キトラ古墳(明日香村)の壁画は1143片に分けて石室から取り外されました。カビの除去と強化処置、そして各壁面単位での再構成が行われ、「四神(しじん)の館」で保管・公開されることになりました。

 四神の館での保管上の注意点は前回(159回)にご紹介しました。一方、壁画を未来に大切に保存していくためには、安定した保管環境の維持だけではなく、壁画自体の状態の変化を注意深く監視していかなければなりません。

 壁画は下地の漆喰(しっくい)に絵の具で描かれています。しかし、かつての修復時に用いられた接着剤や補強材なども加わっており、それぞれの材料の状態の観察が必要になります。

 壁画の材料分析や状態観察は、「壊さず、触らず」の非破壊・非接触の調査が前提です。顕微鏡を使う表面観察はもちろんのこと、目に見えない漆喰内部の状態は、「テラヘルツ波イメージング」という最新の方法で調べます。

 このように「四神の館」の保存管理施設では、最新の機器類を使いながら、壁画の材料分析や壁画の定期的な〈健康診断〉が行われ、保存の努力が続けられているのです。こうした調査の中で、壁画に使われた絵の具の種類や原料、壁画の描き方や手順などが明らかになるものと期待されます。

 

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「テラヘルツ波イメージング」で高松塚古墳に描かれた「青龍」を調べている様子。キトラ古墳壁画でも使われる

(奈良文化財研究所保存修復科学研究室長 高妻洋成)

(読売新聞2016年12月11日掲載)