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(137)サクラの使い道

樹皮 容器の綴じ紐に

 サクラと言えば春を告げる花のイメージが強いですね。平城宮跡は、サクラが咲き誇るお花見スポットとしても有名です。

 奈良時代にもサクラは好まれ、万葉集にサクラの歌が数多く残されています。さらに平城京の住民にとって、サクラは季節を問わずに身近な存在でした。それは、サクラの樹皮を道具に使っていたからです。

 サクラの樹皮は水に強く、薄くて強度があります。この利点を活かして、昔の人々はサクラの樹皮を細くさいて、「紐(ひも)」として利用しました。何かと何かを結んだり、巻き付けたり、現在のビニール紐のように使用していたのです。中でも、曲物(まげもの)という容器の綴(と)じ紐として多用されました。

 しかも、サクラの樹皮をみがくと、ブロンズ色の光沢が出ます。昔の人々がサクラの樹皮を好んで使ったのは、紐としての強度もさることながら、ブロンズ色に光る美しさもその理由だったのではないでしょうか。

 平城京跡からも、木からはぎとった状態のサクラの樹皮が出土しています。今の季節、サクラの花の美しさばかりに目を奪われがちですが、ぜひ樹皮の部分にも目を向けてみてください。きっと、樹皮の使い道を考えながらサクラを眺めた古代人の気持ちに少し近づけるはずです。

 

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平城宮跡で出土した、容器の綴じ紐として使われていたサクラの樹皮

(奈良文化財研究所アソシエイトフェロー 浦蓉子)

(読売新聞2016年4月3日掲載)

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