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(127)お湯のないお風呂?

身体蒸して体清める

 お湯にどっぷり浸(つ)かり、サッパリ。お風呂は、日本人になじみ深いものです。

 でも湯ぶねに肩まで浸かる入浴法は、江戸時代になってからのもの。古代の「風呂」は、現在のサウナに近く、湯気で身体を蒸す蒸し風呂のことでした。一方、お湯を汲(く)んで体を清める取り湯という方法もありました。

 仏教では、入浴は僧侶の身体を清浄に保つための、大切な宗教行為でした。そのため、古代寺院には「温室」「浴堂」などの入浴施設があったことが、文献から知られています。

 発掘調査でも、飛鳥の川原寺で、古代の鉄釜鋳造遺構が発見され、湯釜の可能性が指摘されています。京都・向日市の宝菩提院(ほうぼだいいん)廃寺では、平安時代の浴室遺構が見つかりました。また、浴室の建物も、東大寺大湯屋(1239年、1408年大改造)をはじめ、14棟が現存しています。

 でも一般の人々が入浴できる機会はめったにありませんでした。そうしたなか、病人や貧しい人々を入浴させる「施浴(せよく)」が仏教の慈善事業としておこなわれました。光明皇后が法華寺で1000人に施浴をしたという逸話は有名ですね。

 今や多くの家に浴室があり、毎日入浴することができます。それは歴史的に見ると、とても幸せなことなのです。

 

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1239年に建てられた東大寺の大湯屋

(奈良文化財研究所研究員 海野聡)

(読売新聞2015年12月20日掲載)

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