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(126)漢字と仮名で文を書く

大小使い分け 表現豊かに

 現在、私たちは漢字と仮名を組み合わせ「私は花を買います」というように、文を書きます。では、まだ平仮名がなかった古代には、漢字だけでどのように日本語を表現したのでしょうか。

 まずは、漢字の「意味」を使って、中国語風の語順で「私買花」と書く方式と、日本語の語順で「私花買」と書く方式が考えられます。これでも何となく意味はわかりますが…。でもこの方式では、「は」「を」「います」など、日本語の文を支える大事な部分が、どうしても表せません。

 また、漢字の音を使った一字一音の「万葉仮名」で、「和多志波波奈乎可以万須」と書き表す方法もありました。でもこれでは、字数が多くなり、書くのも読むのも面倒です。

 そこで、今の私たち同様に漢字と仮名を組み合わせる方式が、あみだされました。「私波花乎買以万須」と書く方式です。仮名の部分「波」「乎」「以万須」は小さく書くので、漢字を意味で使っているところとの区別も一目瞭然。

 やがて「波」は平仮名の「は」に変化し、漢字の一部を使って片仮名が作られるようになり、日本語の表現はとても豊かになりました。

 私たちの文の書き方のルーツは、漢字だけで日本語の細かいところまで書こうとした古代の人びとの工夫にあったのですね。

 

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平城宮跡で出土した「不怠而大尓」と書かれた木簡。「怠らずして大いに」と読み、
「て」と「に」にあたる「而」「尓」が小さく記されている  

(奈良文化財研究所アソシエイトフェロー 井上幸)

(読売新聞2015年12月13日掲載)

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