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(110)夏に活躍した氷室

冬に切り出し、草で断熱

 暑い日の、ひんやり冷たいかき氷。夏ならではの楽しみです。

 夏に氷なんて、冷凍庫がある現代の特権かと思いきや、実は奈良時代の夏にも氷はありました。

 冬に凍った池の氷を切り出して氷室の中に入れ、草で覆って断熱をし、夏まで保存していたのです。

 氷室は朝廷が直接管理をしていました。一方、奈良時代前半の大貴族、長屋王は、都祁(天理市福住付近)に専用の氷室を持っていたことが、木簡から分かっています。長屋王の氷室は二つ、深さは約3メートル、穴の周囲は約18メートルもありました。この氷室で蓄えた氷は、暑い季節に馬に積んではるばる奈良の長屋王邸に届けられました。長屋王の権力と財力の大きさがうかがえますね。

 また、役所が氷を購入した記録が残っています。どうやら、商品としても流通していたようです。

 氷は食用や食べ物の保存のほか、真夏に親王または三位以上の貴族が亡くなった際には、現代のドライアイスの代わりに氷が支給されました。氷の支給が身分の高い人に限られていることからすると、やはり氷はとても貴重だったようです。

 意外に古い夏の氷の歴史。古代、氷がいかに貴重だったかを考えると、かき氷がいっそう美味(おい)しく感じられることでしょう。

 

(110)夏に活躍した氷室_岡本友紀.jpg

 

(奈良文化財研究所研究員 石田由紀子)◇イラスト・岡本友紀

(読売新聞2015年7月12日掲載)

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