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オーテのある島

2015年9月 

 香川県高松市の女木島は、高松港からフェリーに乗って20分ほど。瀬戸内海に浮かぶこの島の海岸付近には、「オーテ」と呼ばれる石垣があります。その石垣は、冬の季節風、さらにそれとともに吹き込む海水の飛沫から民家を守るために築かれたものです。島の独特の気象条件のなかで、暮らしを育んでいくための地域の知恵が生み出した景観といえるでしょう。このように、人々が地域の気象や地形あるいは生態系などと上手に付き合いながら、あるいは巧みに利用することで形成されてきた景観を「文化的景観」と呼びます。 

 文化的景観は、1990年代以降世界的に注目されるようになった考え方です。日本では、2004年に文化財のひとつとして位置付けられ、「地域における人々の生活又は生業及び当該地域の風土により形成された景観地で我が国民の生活又は生業の理解のため欠くことのできないもの」(文化財保護法第2条)については、国が「重要文化的景観」として選定しています。

 ただし、冒頭のオーテは、国や県あるいは市によって法制度のもとで保護された文化的景観ではありません。それでも、市の教育委員会は現地に解説板を設置して、島の気象条件と生活の関係性の中で築き上げられたオーテの大切さ(価値)を伝えようとしています。また、この島は現代アートの有名なトリエンナーレである瀬戸内国際芸術祭にも参加しており、その作品を案内するマップにも、オーテのことが書き込まれています。瀬戸内国際芸術祭は、島の伝統文化や美しい自然を生かした現代美術を通して瀬戸内海の魅力を世界に向けて発信することを目指しており、文化的景観にも通じる催しといえるでしょう。

 ところで、文化財というと、例えば国宝・重要文化財あるいは世界遺産のような、制度によって保護されたものをイメージしがちです。しかし、近年では地域の何気ない「お宝」といったものまでが意味を与えられ、大切にされるようになってきました。そうしたものを「発見」するテレビ番組も人気を集めています。

 人々が地域の風土や歴史のなかで育んできた文化的景観も、ともすれば見逃されてしまいがちな、一見ありふれた景観です。それを丁寧に読み解くこと、つまり、それが形成されてきた理由を探り、その価値を知ることで、味わいのある地域の魅力を作り上げる資源としても活用できるのです。法や条例によって位置付けられているかどうかにかかわらず、こうした文化的景観を地域づくりに役立て、さらには次の世代に受け継いでいこうとする取り組みも各地で進められています。ぜひ、そうした取り組みが一層盛り上がっていってほしいと思っています。

 

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海岸と集落の間にたつ「オーテ」

 

 (文化遺産部アソシエイトフェロー 菊地淑人)