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古代人の手紙

2015年8月 

 学生の頃、あるテレビ番組で、私の母校のトイレットペーパーは硬い、と紹介されているのを観たことがあります。学内の業務で出る膨大な量の反古紙を利用して作っているから、ということでした。

 古代社会でも、このあたりの事情は現代と同様だったようです。奈良時代の人びとは、用を足したあと、籌木ちゅうぎと呼ばれる細いヘラ状の木製品でお尻を拭っていました。そして、この籌木、不要になった木簡(=古代の反古紙??)を縦に割くなどして再利用したものも多かったとされています。中国語ではトイレットペーパーのことを「手紙」と書くそうですが、元の木簡の文字が残る籌木は、二重の意味で「古代人の手紙」です。

 が、ふと疑問も浮かびます。某大学オリジナルペーパーが取り上げられたのは、普通より質が劣っていたことも理由のひとつ。実際に売り場を眺めてみると、香りつきのものなど、多彩な製品が並んでいます(インターネットで検索したところ、1ロール何千円もする高級品までありました!)。木簡を再利用する場合もあったとして、それとは別に、古代には高品質な籌木はなかったのでしょうか。

 そんなふうに思っていたある日、驚きの出会いがありました。
 平城宮内の東南部、東院(とういん)地区西隣の東方官衙(とうほうかんが)と呼ばれる地区の発掘調査で、直径70cmほどの土坑がいくつか見つかりました。中に溜まった真っ黒な土を持ち帰って洗浄したところ、植物の種や魚の骨などの食物残滓(ざんし)がわらわらと・・・ どうやら、官人の糞便などをまとめて廃棄した土坑だったようです。そして、出るわ出るわ、夥しい数の木の棒が!! 出土状況から、籌木とみて間違いありません。でも、何か様子が変です。四面ともきわめて滑らかに削り整えられており、先端まで丁寧な加工を施したものもあります。また、長さを基準にいくつかのグループに分類できるなど、製品としての規格性もうかがわれます。文字が残っている可能性を考え赤外線装置でも観察しましたが、いくら調べても、墨痕ひとつ見つかりません。
 そう、これらは木簡を再利用したようなものではなく、最初から籌木として丹念に作り込まれた、上質な籌木だったのです。よく「木の棒なんかでお尻を拭って、昔の人は痔になったりしなかったの?」と尋ねられますが、この籌木ならそんな心配は御無用でしょう(たぶん)。やはり古代にもピンキリ多様な籌木が存在したのです。

 でも、だとすると、これほど上等な籌木を使っていたのはどんな人たちだったのか、あるいは、見事な逸品に仕上げた職人さん(?)のこだわりポイントは・・・ 反対に、木簡由来の粗悪品を片手に、裂れ痔の恐怖に怯えていた(?)人びとの素顔は・・・ 疑問や興味は尽きません。
「古代人の手紙」籌木は、思った以上に雄弁な様子。その語るところを漏らさず汲み取れるよう、奮起一番、調査・研究に励みます。


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 たくさんの籌木たち

丁寧に調整された先端の様子.jpg

丁寧に調整された先端の様子

 (都城発掘調査部研究員 山本祥隆)