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(98)ウンチの話

食生活 貴重な情報源

 平城宮の役所が集中している場所を発掘していた時の話です。同僚が直径60センチほどの小穴を掘ってみると、えも言われぬ色をした土の中から、ウリのタネや割り箸の様な木(クソベラ)がたくさん出てきました。もしかしてと思い、専門家に分析をお願いしたところ、多量の寄生虫の卵殻が見つかり、「間違いなくウンチです!」と電話がきました。さらに、小穴の土を洗ってみると、ハエのサナギの抜け殻も出てきました。ハエが舞い、匂い立つ野壺(のつぼ)(肥だめ)のような情景が頭に思い浮かびました。

 そんな想像とは裏腹に、このウンチは、非常に重要な学術資料なのです。小穴の土からは、イネ、ナス、ウリ、キイチゴ、クワ、カキ、ヤマモモ、アケビ、ヤマブドウ、クリ、サンショウ、ゴマほか、多種多様なタネが出てきました。寄生虫の分析から、コイ、フナ、アユ、ウシ、ブタ(イノシシ)などを食べていたこともわかりました。

 つまり、ウンチの発見は、当時のお役人たちの食生活や健康状態を知る上で貴重な情報源となるのです。さらにウンチの研究は、当時の食料生産や食物の調理法の解明、古代の肉食をめぐる議論にも発展する可能性があります。

 今後も、周囲の冷ややかな視線に耐えつつ、古代のウンチ探しとウンチの分析にこだわっていきたいと考えています。

 

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穴から出土したクソベラ

(奈良文化財研究所主任研究員 今井晃樹)

(読売新聞2015年4月5日掲載)