高級品の密閉重宝
漆器は日本を代表する優れた工芸品のひとつです。漆の利用は縄文時代に始まり、接着剤や塗料として長く使用されてきました。
古代になると、仏教文化の広がりとともに、美しく光沢のある漆の需要が高まり、漆は次第に入手困難な高級品となりました。このため、政府は全国に漆の栽培を奨励し、漆液を税として中央に納める仕組みを整えました。
平安時代には、上野や越中、能登、備前など14か国が漆の貢進国に指定されています。
奈良時代、各地からの漆の運搬具として使われたのが須恵器の漆壺(つぼ)です。漆液は空気に触れると固まってしまうため、密閉しやすい細口の壺に入れて運ばれました。漆を使う工房では、漆壺を打ち割って、中の漆液を残らず取り出しています。漆壺の中には、墨で「一升一合」(現在の790ccほど)と内容量が書かれたものもあります。
奈良時代の漆の貢進国は記録にはありませんが、須恵器の壺の産地がわかれば、漆の産地もわかるはずです。その結果、美濃、越中、能登、備前など、平安時代とほぼ同じ漆の産地が明らかになっています。
各地から漆を運んだ壺
(奈良文化財研究所研究員 大澤正吾)
(読売新聞2015年2月8日掲載)