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(88)同笵瓦から何がわかるの

古代の地域交流映し出す

 美しい蓮華(れんげ)文や唐草文で飾られた軒丸瓦や軒平瓦。これらの文様は、型に粘土を詰めて作ります。型を使うと、同じ文様の瓦を大量生産できるのです。軒瓦の型を「笵(はん)」といい、同じ笵で作った瓦を「同笵瓦」と呼びます。

 一見同じ文様に見えても、同笵瓦とは限りません。同笵瓦の決定的な証拠となるのが、笵の「傷」です。笵は普通木製なので、使用するうちに傷ができてしまいます。この傷が、軒瓦の文様に写し出されることで、指紋のように同笵瓦の動かぬ証拠となるのです。

 こうした同笵瓦を、遠く離れた場所で確認できた例があります。平城宮第一次大極殿院の軒丸瓦のひとつの種類が、長崎県の壱岐島にある嶋分寺(とうぶんじ)の瓦と同笵でした。

 その移動距離は、なんと直線でも600キロ以上。嶋分寺のほうが文様に傷が多く、平城宮で使った笵を、壱岐まで運んで使ったとことがわかりました。中央と繋(つな)がりがあった壱岐直(あたい)氏等の有力氏族が、当時最先端のデザインだった平城宮の瓦の笵をゆずり受けて、地元に寺を作ったのでしょう。同笵瓦を通して、古代の技術や地域の交流がみえてきます。これも古代人が、傷んだ笵を捨てずに使ってくれたおかげです。

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左が壱岐嶋分寺で出土した瓦(壱岐市教委所蔵)、右が平城宮跡の瓦。同じ笵で作られた

(奈良文化財研究所研究員 石田由紀子)

(読売新聞2015年1月25日掲載)