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(86)古代ののこぎり

謎多き木材加工技術

 飛鳥時代から奈良時代にかけては、寺院や宮殿、都の造営が相次ぎ、まさに建設ラッシュの時代でした。そこでは膨大な量の木材と、それを加工するためのさまざまな道具が使われたことでしょう。

 ところが不思議なことに、これまでに藤原京や平城京からは、ほとんど大工道具が出土していません。古代の大工道具については、不明な点が多いのです。

 そうしたなかで、明日香村にある石神遺跡からは、7世紀後半のほぼ完全な形ののこぎりが出土しています。木製の柄に、片側のみ鋸歯(きょし)(ぎざぎざの刃)がある鉄製の刃を装着した長さ45センチほどののこぎりです。しかし、刃の長さは25センチほどしかなく、これではとても太く大きな木を切ることはできません。

 板を切り出す大型ののこぎりの登場は、室町時代まで待たねばなりません。

 古代の木材加工の技術は、まだよくわかっていませんが、きっとたいへんな労力と時間を要したことでしょう。古代の遺跡から大工道具がなかなか出土しないのは、これらの道具が大事に使用され、大切に保管をされていたからかもしれません。

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石神遺跡出土のこぎり

(奈良文化財研究所飛鳥資料館研究員 丹羽崇史)

(読売新聞2015年1月11日掲載)