木簡に身近な動物
神社に行くと、馬が描かれた木の板に、家内安全や受験合格、恋愛成就など様々な願い事を書いた「絵馬」が奉納されています。
こうした絵馬の起源は、古代にさかのぼります。中でも平城京二条大路の溝から出土した奈良時代の絵馬は、ベンガラや白土が塗られた彩色鮮やかなもので、専門の絵師によって描かれたと考えられています。
今回は、そうした精緻な絵馬ではなく、木簡に落書きされた動物の絵を紹介したいと思います。
平城京出土のこの木簡には、様々な人の顔とともに、馬の顔が描かれています。では、その下の動物は何でしょうか?
馬と同様に目は「○」で表現されています。大きな耳があるようにも見えますが、馬の耳の表現とは違います。これは角を描いているのではないかと思います。そうすると、この動物は、鹿になりそうです。みなさんはどう思われますか。
もしこの動物が鹿であれば、「馬」の下に「鹿」が描かれていることになります。現代風に言うと、「バカ!」という悪い意味になりますね。
でも、ご安心を。奈良時代には「馬鹿」という言葉はなかったと考えられます。ですから、この絵は、単に身近な動物を描いた落書きにすぎないようです。
平城京跡から出土した馬と鹿が落書きされた木簡(部分)
(奈良文化財研究所研究員 山崎健)
(読売新聞2014年12月21日掲載)