子の出世願い胎盤収納
胞衣(えな)とは、はじめて聞く言葉かもしれませんが、お母さんの胎内で赤ちゃんに栄養を補給する胎盤のことです。出産のとき、赤ちゃんより遅れて出てきます。昔の日本では、胎盤を子供の分身と考え、大切に扱う風習がありました。
壺(つぼ)や杯などの土器の中に胎盤をおさめ、蓋をして地中に埋めた胞衣壺がその代表的な例です。胎盤とともに筆、墨、刀子(ナイフ)などを納めた例もあります。これらの道具は、当時の役人の必需品なので、誕生した男の子が、役人として立身出世することを願って入れたのでしょう。お金を納めた例もありますが、これは子供が健康に育つよう神様へ捧げられたと考えられます。
平城京では、奈良時代の胞衣壺が30例ほど見つかっていますが、その多くは建物の下やすぐそばに埋められています。こうした場所は人の往来が多く、人にたくさん踏まれることで、子供がすくすく成長すると信じられていたようです。
親がわが子の健やかな成長を願うのは、いつの世でも同じこと。親の愛情がこもった胞衣壺を見ると、奈良時代の人びとが少し身近に感じられませんか?
平城京跡で出土した胞衣壺
(奈良文化財研究所主任研究員 青木敬)
(読売新聞2014年9月14日掲載)