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(65)漆紙文書

器にピタッ 貴重な史料

 英語のjapan(ジャパン)は、日本を意味すると同時に、漆や漆器を意味します。漆器は日本を代表する工芸品として世界的に有名です。

 日本で漆の利用が始まったのは縄文時代のこと。漆は産出量の少ない貴重品で、漆の木に刃物で傷をつけ、にじみ出た樹液をかき取って採取します。奈良時代になると、全国的に漆の栽培が奨励され、塗料や接着剤として多用されました。

 でも、漆はとてもデリケート。酸素やほこりは大敵です。そのため、保管するときには容器に紙でぴったりとフタをしていました。

 反対に、一度固まれば漆は驚くべき強靱(きょうじん)さを発揮します。漆が染みこんだフタ紙が、土のなかで1300年間腐らず残るほどです。このフタ紙、不要になった手紙や帳簿などを再利用したため、文字が記されていることがあります。これが「漆紙文書」と呼ばれるもので、木簡と同じように、古代史探究のための貴重な史料となっています。思いがけない古代の漆の贈り物、と言えるでしょう。

 一方、漆紙文書には困り者な一面も。まるで皮製品のように変質してしまい、肉眼ではほとんど字が読めません。折りたたんで捨てられ、そのまま固まったものもあります。そんな時は慎重に折り目を開き、赤外線装置を駆使しながら解読を進めます。中につまった未知の世界に、わくわく感を募らせながら。

 

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(奈良文化財研究所研究員 山本祥隆) ◇イラスト・岡本友紀

(読売新聞2014年7月27日掲載)

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