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(64)瓦の裏にあるヒント

表に出ないひと工夫

 長いアゴ、短いアゴ。人の顔の話ではありません。私たち奈文研の研究員は、瓦の文様がある部分を顔と呼んでいます。これに対してアゴ(顎)は、軒平瓦の裏面にある段差のこと。文様をつける顔の部分を幅広くとるために粘土をつぎ足すなどして作ったもので、横からみると人でいう顔と顎の関係になっています。

 アゴの長さや作り方は、時期や地域によっても違います。アゴは文様だけでは分からない情報をもち、瓦の生産地や時期を推定する重要な手がかりになります。屋根に葺(ふ)かれた状態では見えない瓦の裏面に、表に出ない秘密が隠されているのです。

 瓦の裏話をもう一つあげましょう。桜井市の山田寺跡から出土した軒平瓦の多くには、裏面に朱線・朱書が残されていました。横一文字の朱線には、太くて幅の一定しないものと、精細で幅の均一なものがあります。分析の結果、前者は建物外面の彩色が瓦に付着したもの、後者は瓦を軒先に設置する際の目印としてつけた線であることが分かりました。また、山田寺では朱や墨で漢数字が書かれた瓦も多数出土しています。これは瓦を葺く位置を示したものと考えられています。

 裏話や裏事情という言葉があるように、表から見えない物事が世の中にはたくさんあります。瓦もきれいな文様だけに目を奪われていてはいけないわけです。

 

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軒平瓦の裏面。上端の段差が顎で、上から見ると顔がみえる。中ほどに朱線もみえる

(奈良文化財研究所研究員 森先一貴)

(読売新聞2014年7月20日掲載)

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