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(60)古代の省略文字

横着が生んだ かなとカナ

 左の木簡の写真、漢字に交じってカタカナの「ア」や「マ」のような字がみえますね(矢印部分)。でもこれはカタカナではありません。「部」という漢字を省略した文字なのです。

 古代人の名前は、左の木簡に書かれた物部(もののべ)や漆部(ぬりべ)、日下部(くさかべ)のように、〇〇部という姓が多く、「部」は書く機会の最も多い字でした。このため、「部」の字を毎回きちんと書くのが面倒になり、偏を省略して、旁(つくり)の「阝」だけで「部」と読ませるようになりました。最初は「」を「ア」のように書いていましたが、書いているうちにこれも面倒になったのか、さらに二画目を短くして「マ」と書くようになりました。

 古代の木簡を見ると、7世紀には主に「ア」が(写真1)、8世紀になると「マ」が使われていて(写真2)、「ア」から「マ」へと変わったことが分かります。

 その後、平安時代になると、さらに省略が進み、やがてカタカナ・ひらがなの「へ」の字が誕生します。

 このような古代人の工夫によって、徐々に漢字から、カタカナやひらがなが生み出されていきました。

 古代の木簡を見ていると、漢字を使いこなそうとする古代人の知恵や苦労が見えてきます。

 

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(奈良文化財研究所アソシエイトフェロー 方国花)

(読売新聞2014年6月22日掲載)

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