50年で登録 広がるすそ野
トン、トン、トン。
奈良の薬師寺には、連日、東塔の解体修理の槌(つち)音がひびいています。奈良時代に建てられた東塔は千二百数十歳。各時代の人々が大切に守り続け、現在は日本を代表する文化財建造物として国宝に指定されています。
ところで、建造物は何年たつと文化財になるのでしょうか。
答えは建設後50年。
「えっ! そんなに新しい建物も」と思う方もいるかもしれませんが、近代の建造物は、社会や生活の変化によって急速に失われつつあるのです。このため平成8年(1996年)には、文化財登録制度という新たな保護制度も作られました。これは保護の必要な建造物を台帳(登録原簿)に登録し、持ち主の協力を得ながら保存しようという緩やかな制度です。
現在、東京タワーや通天閣、名古屋テレビ塔、別府タワーといった昭和の高度経済成長期に建てられた塔が、登録有形文化財に名を連ねています。いずれも建設から50年を経て間もなく登録されました。
奈文研も、明治時代から昭和時代にかけての近代化遺産や近代和風建築の保護のために、全国で調査研究を続けています。各地に残る近代の建造物の調査を通して、文化財のすそ野を広げる作業も私たちの大切な仕事のひとつです。
(奈良文化財研究所研究員 鈴木智大)◇イラスト・岡本友紀
(読売新聞2014年6月15日掲載)