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鳥と信仰

2014年10月

 古今東西、私たちの生活には多くの動物たちが関わっています。たとえば犬、馬、牛、そして鳥です。こうした動物たちは、家畜や食用としてさまざまな場面で私たちの生活を支えてくれています。と同時に、祭祀や信仰の対象にもなったのです。

 鳥への信仰は古くから世界中でみられ、多くの神話に鳥が登場します。日本では、『日本書紀』や『古事記』に「天岩戸」の「長鳴鳥」、「日本武尊」の「白鳥」が描かれています。夜明けを告げる、あるいは飛翔し往来する、といった鳥の能力に由来するのでしょう。また、鳥は農耕社会との関係も深く、「稲の穀霊」を運ぶ生物として、境界を守る「物見鳥」として神聖視されています。こうした鳥の信仰は、弥生時代には土器に描かれた「鳥装のシャーマン」や竿の上につけた鳥形木製品から、そして古墳時代では古墳に並べられた鳥形埴輪や鳥形木製品からうかがえます。

 つづく藤原京や平城京の時代にも鳥の祭祀具はありました。木でつくられた鳥の形代、鳥形です。長さ10cm前後、厚さ0.5cm程度の薄い板状をしており、羽を休める姿や飛翔する姿を写し取っています。なかには、墨で羽や眼を写実的に描くものもあります。残念ながら、これらの鳥形は溝や穴に捨てられた状態で出土するので、祭りの場における鳥形の使い方や性格、そこに込められた想いを読み解くことは容易ではありません。また、造形が素朴なため、鳥の種類を特定することも難しいです。ただし、連綿とつづく鳥の信仰を見て取るとともに、都だけではなく地方の役所などの遺跡からも出土するので広く浸透した信仰であることがわかります。

 神社の「鳥居」、地名の「飛鳥」、島根県津和野町をはじめ全国各地の「鷺舞」。現在なお、私たちの身のまわりには鳥の信仰がさまざまな形で息づいているのです。

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飛鳥・藤原地域における古代の鳥形

      (都城発掘調査部研究員 和田 一之輔)

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