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飛鳥の民家

2014年8月

 飛鳥資料館で今夏、開催中の写真コンテスト作品展『飛鳥の甍』、もうご覧いただけたでしょうか?今年で5回目をむかえた写真コンテストは、毎回テーマを決めて作品を募集しています。様々な視点で切り取った飛鳥の風景を通して、あらたな魅力の発見・発信につなげたいと考えております。

 ここでは、今年のテーマ「甍」にこめられた、飛鳥の民家や町並みへの想いについてお話しましょう。

 甍とは、瓦葺きの屋根をさします。日本で初めて瓦が葺かれたのは、飛鳥の地でした。崇峻天皇元年(588)、飛鳥寺の創建にあたり、百済から僧や寺工たちとともに瓦博士が来日し、瓦葺きの伽藍が完成します。その後、瓦葺きの建物は、飛鳥の寺院や、藤原宮の宮殿などに広まっていきました。それから1400年余、古代の伽藍や宮殿は失われました。発掘調査で出土する美しい文様の瓦は、古代の甍を彷彿とさせます。

 近世以降、瓦は民家の屋根にも葺かれるようになります。奈良県内には、日本最古の町家である栗山家住宅、城郭のような大屋根が目を引く今西家住宅など17世紀前半までさかのぼる瓦葺きの古い民家があります。また、橿原市今井町、五條市五條新町、宇陀市松山など、歴史的な町並みも数多く残されています。

 一方で、現在の明日香村には重要文化財指定や登録文化財の民家は一件もありません。しかし、これは、明日香村に文化財的な価値をもつ民家がない、ということではありません。村内にも、江戸時代から近代までに建てられた民家が今に伝わり、飛鳥の景観の重要な要素となっています。

 その中でも、もっとも古い時期のものが、豊浦の集落にある民家。明日香村史では、江戸時代初期とみています。入母屋造の茅葺で、庇に桟瓦を葺きます。内部は食違い四間取りで、軸部を差鴨居でかため、天井高・内法高が低く、古い時代の様相をみせます。上手には近代の座敷を増築しています。

 

明日香村豊浦の民家.jpg

明日香村豊浦の民家

 

 また、村内には、瓦葺きの民家も残ります。小山の民家は規模もさることながら、細部の道具瓦の意匠に見ごたえがあります。大黒・恵比寿・弁天などの七福神、龍、滝登りの鯉などの吉祥文様をいれた鬼瓦、瓦と漆喰を組み合わせた模様など見飽きません。こちらの民家は、『飛鳥の甍』のポスター写真に掲載しています。

 上居の民家は、土蔵と長屋門が並ぶ立面、大規模な主屋、建ち並ぶ付属屋など、堂々とした屋敷構えをしています。また、長屋門の欄間や主屋軒下の持送りの彫刻も、まるで寺社建築を思わせるような装飾性豊かなものです。

 

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明日香村上居の民家

 

 さらに、明日香村には印象的な町並みも残ります。岡・飛鳥の集落に並ぶ町家。入谷に点在する大和棟の民家群。栢森や稲淵にみられる石垣と甍が連なる家並み。

 飛鳥といえば古代の遺跡、というのが一般的ですが、民家や集落のたたずまいにも目を向けて飛鳥めぐりを楽しんで頂きたいと思い、今夏、飛鳥資料館では「飛鳥の甍マップ」を作成、配布しております。飛鳥の民家や集落が、過去から未来へと引き継がれていけるよう、今後も調査研究と展示をとおして、その魅力や価値をお伝えしていきたいと思います。

      (飛鳥資料館 研究員 西田紀子)

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