謎照らし出す赤外線
木簡のなかには、時たますごい照れ屋さんがいます。土の中から出てきて、1300年ぶりに空気に触れると、あっという間に真っ赤、ではなく真っ黒になってしまうのです。
写真の木簡も、そんな恥ずかしがり屋の一人。巻物の軸として使われたもので、小口にタイトルが書かれています。けれど、墨の文字は黒いから、これではもう読めません。一体どうしたらいいのでしょう。
こんな時に効果バツグンなのが、赤外線での観察。木簡に赤外線を当てると、ほら! 墨は赤外線を吸収するので、文字の部分だけが黒く映り、はっきり読めるようになるのです。
ところで、木簡が長いこと太陽の光に当たったりして、すっかり墨がなくなってしまうこともあります。こんな困り者には、さすがの赤外線もお手上げです。
でも落ち着いて見ると、そんな木簡ではよく、文字があった部分だけがわずかに盛り上がっています。墨に守られ、木肌の傷みが食い止められるからです。
こんな時は、斜め上から光を当てます。影ができて、盛り上がりのデコボコが強調されるので、意外とすっきり読めたりします。
頭フル回転の工夫の連続。それが奈文研の木簡の解読調査です。
真っ黒になった巻物の軸の木簡
軸の小口の赤外線写真
「豊前国天平二年郡稲未納帳」と読め、730年の豊前国(福岡県東部から大分県北部)の
稲の未納分に関する帳簿の軸だったらしい
(奈良文化財研究所研究員 山本祥隆)
(読売新聞2013年12月1日掲載)