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(28)古代の食事情

調理法示す包丁の跡

 写真の骨は、真鯛(まだい)の主上顎骨(しゅじょうがくこつ)という頭の骨です。藤原宮の造営時に掘られた運河に棄(す)てられていました。約2センチ・メートルの小さな骨で、運河跡の土をフルイにかけて見つかりました。

 この骨を顕微鏡で観察したところ、包丁で切断した痕跡を確認できました。どうやら真鯛の頭を包丁で細かく割って、汁物などのダシをとったようです。

 それでは、真鯛の身はどのように食べたのでしょうか。万葉集には「鯛を醤(ひしお)と酢に蒜(ひる)をつき混ぜて食べたい」という歌が残されています。ただし、この鯛は、刺し身なのか焼き魚なのか不明です。

 そこで、遺跡から見つかった寄生虫卵を調べてみると、鯉(こい)や鮎(あゆ)などの魚を生で食べたことがわかりました。このことから、魚を生食する習慣が藤原京や平城京に広く存在していたと考えられます。

 木簡にも真鯛の調理方法が記されていますが、干物や発酵食品が中心で、骨や寄生虫卵から推測できる調理法とは必ずしも一致しません。

 古代の食生活の復元には、木簡に書かれた情報が欠かせません。しかし、遺跡から出土する動植物の遺存体は、それ以上に多彩な古代の食生活を教えてくれるのです。この真鯛の骨は、平城宮跡資料館に展示されています。ぜひ実物をご覧ください。

 

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藤原宮跡で出土した真鯛の主上顎骨。包丁をあてた跡や、切断した痕跡が見て取れる

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主上顎骨の位置を示した真鯛の骨格標本(いずれも奈良文化財研究所平城宮跡資料館で)

(奈良文化財研究所研究員 山崎健)◇写真・読売新聞社ご提供

(読売新聞2013年10月27日掲載)