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(14)すり減るまで大切に

下駄に残された足の痕跡

 皆さんは靴を何足持っていますか。2足? 3足? 10足以上? 今、身の回りには、いろんな履物があります。スニーカーやブーツ、サンダル……。数え挙げればきりがありません。

 でも奈良時代にあった履物は、木製の下駄(げた)と沓(くつ)、ワラを編んだ草鞋(わらじ)ぐらいでした。正倉院には布や皮で作ったものが伝わっていますが、履けたのは身分が高い人に限られていました。多くの人々は、草履や裸足で生活していたようです。

 平城宮跡や平城京跡から出土する下駄には、女性用と男性用の区別があり、鼻緒の位置で左右の違いもありました。ですが、出土例は大変少なく、一人で何足も所有することはなかったようです。

 出土した下駄や沓は、足と接する部分や裏側が、とてもすり減っています。指跡のくぼみが残っていて履いた人の足の大きさがわかる下駄や、かかとの部分に穴が開いた沓もあります。

 長く履いた靴は、爪先やかかとの部分がすり減りますよね。おそらく奈良時代の人も、履けない状態になるまで長く大事に履いたのでしょう。そう思うと、物を大切にした遠い昔の人のことを急に身近に感じませんか?

 

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平城京跡で出土した木製の沓(上)と下駄

(奈良文化財研究所研究員 芝康次郎)

(読売新聞2013年7月14日掲載)

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