なぶんけんブログ|奈良文化財研究所に関する様々な情報を発信します。

(12)非破壊分析

エックス線で状態診察

 遺跡から出土する遺物には、木製、鉄製、銅製、ガラス製など様々な材質のものがあります。中には、見ただけでは材質がわからないものもあり、金属製の遺物が土製と間違われていた例もあります。

 これらの遺物は、土に埋もれている間に劣化が進んでいます。このため発掘後に保存処理が必要になりますが、金属と土では保存処理の方法が全く異なるため、処理前に状態や材質の調査が欠かせません。

 調査には多様な科学的手法がありますが、貴重な文化財を「壊さない」「汚さない」「触らない」ことが大原則です。非破壊調査には現在、エックス線が最も広く利用されています。エックス線撮影は、サビの下に隠れた金属製品の本来の姿や構造を知るのに役立ちます。エックス線成分分析では、遺物に含まれる元素の種類やその含有量から、遺物の材質や製法がわかります。

 奈文研には、エックス線撮影装置やCT(コンピューター断層撮影法)スキャンなど、病院と同じような機械があります。それは、私たち保存修復研究室の研究員が、文化財の健康状態を診察し、悪いところを治療する、“文化財のドクター”のような仕事をしているからです。

 

(12)非破壊分析_1.jpg

向原遺跡(熊本市)で出土した土に覆われた平安時代の錠前

 

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錠前のCT画像。細部まで鮮明にわかる

(奈良文化財研究所研究員 田村朋美)

(読売新聞2013年6月30日掲載)

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