漏刻建設 権威の象徴
私が勤める飛鳥資料館(明日香村)に、飛鳥時代の水時計である「漏刻(ろうこく)」の模型が展示されています。これは、明日香村の水落遺跡から発掘された水時計の遺構を基に、文献史料や現存する中国の古い水時計を参考にして復元したものです。
漏刻は、階段状に並べた複数の水槽を、銅の細いパイプでつなぎ、それを通って最下段の水槽にたまる水の量で、時を測る仕組みになっています。
「日本書紀」には、660年に「皇太子(中大兄皇子(なかのおおえのみこ))が初めて漏刻を作り、人々に時刻を知らせた」と書かれています。水落遺跡は、この漏刻の遺跡に当たるのです。
当時は中大兄皇子たちによって、天皇を中心とした新しい日本の国づくりが進められた時代でした。漏刻の建設は、空間だけではなく、時間をも支配しようとした統治者の権威の象徴だったのでしょう。
時間に縛られる現代の私たちの生活。その原点は、飛鳥の水時計にあったのです。飛鳥資料館に展示された漏刻模型や水落遺跡の遺物から、古代の水時計の様子を想像してみてください。
水落遺跡に置かれた漏刻の模型(明日香村で)
(奈良文化財研究所研究員 丹羽崇史)
(読売新聞2013年6月23日掲載)