天体把握し暦を管理
壁画で有名な明日香村のキトラ古墳と高松塚古墳。その石室天井には、夜空に輝く星を描いた「天文図」が広がっていました。
星々は直径6ミリほどの金箔(ぱく)で表現され、それを赤い線でつないで星座に見立てています。両古墳とも、北極星を中心に28の星座を描き、東西には太陽と月を配置していました。
特にキトラ古墳の天文図には、星座の間を縫うように、コンパスで正確な四つの円が描かれていました。これらの円は、観測地点からの地平線や星座の見える範囲、太陽の進路などを表現したものです。当時の天体観測の精度の高さを物語ります。
こうした天文図は、何のために作られたのでしょう。
古代社会では、天上の異変が地上に及ぶと考えられました。また、太陽や月、星々の観測は、暦(こよみ)や時間の管理とも密接にかかわります。天変地異を知り、暦を作るために、正確な天体観測が必要とされたのです。
それにしても、古墳壁画を通じて、1300年前の夜空に輝いていた星たちを見ることができるのは、なんとも幸運なことだと思いませんか。
奈文研では、キトラ・高松塚古墳壁画保存のための科学調査にも取り組んでいます。飛鳥時代の人々の息吹を守り伝える努力です。
(奈良文化財研究所研究員 廣瀬覚)
(読売新聞2013年4月20日掲載)