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笵(はん)で押す

2013年10月  
 
 「判で押したような」というと、同じことの繰り返しで、変化のないさまのこと。この「判」とは、ハンコのことです。なるほど、ハンコを押したらいつも同じになりますね。 

 私たちが藤原京や平城京を発掘していると、屋根の軒端の一番低いところに使われた軒瓦がよく見つかります。軒瓦には蓮の花や唐草などの紋様がついていますが、これは「笵」=型に紋様を彫りつけて、瓦を焼く前、まだ粘土が柔らかいうちに押しつけたものです。「判」と同様、「笵」も同じものをたくさん作るのに適しています。タイ焼きや人形焼きにも、ちょっと似ているでしょうか。 

 日本の場合、軒瓦の笵はほとんどが木製です。ここが大きなポイント。木でできているので、使っているうちにだんだんすり減ったり割れたりして、最後には使えなくなります。木製の笵は、あまり長持ちしないのです。藤原京や平城京の場合、数年という短期間で笵が取り替えられたようです。ですから、軒瓦の紋様から使用された笵を特定できれば、瓦の年代が数年単位でわかるのです。現在、私たちは、藤原京、平城京で使われた軒瓦の笵をおよそ600種類に分類しています。そして、遺跡から軒瓦が見つかると、用いられた笵の種類を調べて、遺跡の年代を測る物差しとし、とても重宝しています。 

 「判で押したような」というと、あまりよくないイメージかもしれませんが、昔の人が瓦の紋様を「笵で押した」おかげで、私たちは当時のようすを知る貴重な手がかりを得ることができるのです。 


平城京の軒瓦と笵(笵は模型)

 
(都城発掘調査部 考古第三研究室長 清野 孝之)