貝塚を掘ると、貝層の中から貝殻はもちろんのこと、土器や石器、獣骨、鳥骨、魚骨などが数多く出土します。
戦前の考古学者は土器や石器を人工遺物とよび、貝殻、獣骨、鳥骨、種子、木材片、岩石などを自然遺物として分類しました。前者は考古学者が、後者は自然科学者が研究するものと定義したのです。その結果、長い間、自然遺物は考古学の対象とは考えられずに軽視され続けてきました。敗戦後、その範囲は、さらに肉眼では見えない花粉、胞子、ケイ藻などに広げられるにいたっています。
人間は環境に依存し、その一部を自分たちの都合の良いように改変しながら歴史を刻んできました。
環境考古学は、それぞれの遺跡を中心とした環境の復元を行い、その変遷を追う同時に、人々が自然環境をどのように利用して現在に至ったのかを明らかにする学問です。
したがって、人類史上、最大の農耕牧畜の起源の問題も環境考古学の最大のテーマとして挙げられるでしょう。農耕牧畜経済以前の狩猟採集漁労活動の復元や、農耕牧畜の開始に伴って生じる遺跡内でのさまざまな遺物遺構の変化やそれによって引き起こされる社会変化に注目し、考古学的にどのようなアプローチが可能なのかを、私自身の生涯のテーマとして追求しています。(松井 章)
以下に私自身のとらえる環境考古学の対象を掲げる。
●追求するテーマによる分類
1.食料資源
土壌の微細形態学的研究
農耕の起源
家畜の研究
2.動物資源の利用
狩猟技法
調理法
骨角器の生産
さまざまな骨角器
石器と金属器
ヤスリ・石と金属ナイフ・石斧と鉄斧・鋸
皮革生産技術
古アジア的鞣しと脳漿鞣し
馬皮・牛皮・鹿皮
骨粉肥料
3.考古学から見た環境
トイレの考古学
上水と下水
都城における斃牛馬処理