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保存修復科学-貴重な文化財を次代に残す-

フィールドワーク

 平城宮跡では建物の礎石や基壇が数多く出土します。これらのうち、風化によって脆くなった凝灰岩石材などは、有機ケイ素化合物(有機シリコーン樹脂)で含浸強化した後、撥水処理を行います。飛鳥地域では、閃緑岩が著しく風化しているのを見かけます。(写真1)

 また、非常に脆くなった遺物を取り上げたり、発掘された遺構の一部を切り取って、博物館に展示したりする場合、硬質発泡性ポリウレタン樹脂や液体窒素などを用いて梱包・強化したのち、遺物や遺構を地面から切り取ります。(写真2)

 発掘調査において、地層のプロフィールを観察し、記録することは、重要な作業の一つです。特に重要であると認められた地層は、エポキシ樹脂や変性ポリウレタン樹脂を用いて転写します。剥ぎ取られた資料は、調査終了後も、考古資料として活用することが可能で、博物館での展示などによく利用されています。(写真3、写真4)

 遺構構築部材や建築物などの劣化損傷箇所を調べるため、現場でサーモグラフィを用いて温度分布の測定を実施します。古墳の発掘調査では、石室内部の環境調査-温度や湿度、内部空気のガス組成などを測定します。さらに石室内部に存在する遺物の種類や分布状態と保存状態も調査します。(写真5、写真6)

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写真1 
硬質発泡性ウレタン樹脂
液体窒素を用いた取り上げ

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写真2
有機ケイソ化合物による
石材の強化

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写真3 エポキシ樹脂を用いた遺構断面の転写

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写真4 遺構断面の保存処理

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写真5 温度勾配および分布の測定

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写真5 温度勾配および分布の測定

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写真6 古墳石室内部のファイバースコープによる観察調査

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写真6 古墳石室内部のファイバースコープによる観察調査

事前調査

 考古資料の材質・劣化状態を知るため、様々な方法で観察・分析を行います。無機質遺物の分析には、蛍光X線分析とX線回折分析が威力を発揮します。(写真7、写真8)  また、遺跡からは、種々の有機質遺物が発掘されます。有機質遺物の材料などの同定には、 FTIR分析や蛍光分光分析などを利用しています。(写真9、写真10)

 目では見ることのできない遺物の内部の構造や劣化状態を、X線を利用して観察します。特に、近年文化財用に開発されたX線CTでは、3次元的に遺物の内部構造を観察することができるだけでなく、画像解析により、錆で覆われている部分の情報を、詳細にとらえることができるようになってきました。(写真 11、写真12、写真13)

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写真7 
レーザーラマン分光分析などによる無機質遺物の分析

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写真8
非破壊分析装置による無機質遺物の分析

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写真9
FTIR分析による有機質遺物の分析

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写真10 
液体クロマトグラフィーによる有機質遺物の分析

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写真11
CRによる事前調査

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写真12
X線CTによる事前調査

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写真13
X線透過撮影による事前調査

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写真14
物理的手法によるクリーニング

保存処理

 金属製品は、脱塩、錆取り、樹脂含浸などを行います。最近、遺物表面を痛めないよう、高吸水性ポリマーを用いた化学的な錆取りの方法が開発されました。(写真15)また、木製品や漆製品などの有機質遺物は、ポリエチレングリコール(PEG)含浸法、真空凍結乾燥法、高級アルコール法などの方法で保存処理を行っています。(写真16、写真17、写真18)

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写真15
高吸収性樹脂法によるクリーニング

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写真16
真空凍結乾燥法による木材の保存処理

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写真17 
高級アルコール法による木材の保存処理

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写真18
PEG含浸法による木材の保存処理

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