奈良文化財研究所に関するさまざまな情報を発信します。

最近の東大寺の調査から

2005年9月
 
 奈良文化財研究所は、1952年に美術工芸研究室、建造物研究室と歴史研究室の三研究室で発足しました。その後の改編で、美工は奈良国立博物館に移り、現在は建造物研究室、遺跡研究室と歴史研究室の三研究室で文化遺産研究部となっています。  
 奈文研は、現在は平城宮跡や藤原宮跡の発掘調査のスタッフが多人数を占めますが、歴史研究室では、奈文研発足当初からのテーマである南都諸大寺の文化財の調査研究のうち、文字が書かれた資料である文書記録、典籍などの原本調査を継続して行っています。  

 ところで最近行っている東大寺の調査で、次のようなことがありました。  
 東大寺には、よく知られているように文字が書かれている資料も、国宝東大寺文書をはじめ、数多く伝えられています。しかし従来知られている資料の他にも、まだ整理されていない多量の近世聖教、文書が東大寺図書館東にある収蔵庫に収蔵されています。 
 その未整理資料の調査を、歴史研究室では外部の研究者の協力も得て、ここ数年続けています。そして江戸時代の聖教、文書の中から、すでに国宝に指定されている文書と一連のものなど貴重な発見もありました。  

 ところでその調査中に収蔵庫に数多くある木箱の中に、箱の蓋の内側に文書が一枚貼られている空箱が一つありました。蓋の内面に貼られていた文書は、じっくり見ると鎌倉時代中期の弘安の年号があり、内容は世親講という鎌倉期、東大寺華厳宗復興のために結集した講内の助成金関係の規則が書かれていました。  
 それでこの箱は、他の史料にみえる世親講の唐櫃の一つであることが判明しました。さらにその蓋の年輪年代測定や箱制作の技法などを、奈文研のその分野の研究者に調査をしてもらったところ、年輪年代では1088年+約50層年を測り、12世紀半ば伐採の材ということが判明し、当時の唐櫃の制作技法も知ることが出来ました。  

 奈文研が南都奈良の諸寺院で行う調査には、思いがけない発見があり、それを複数分野の研究者の協力のもとにその価値を認識する業が特色です。  
 ここでは収蔵庫の一隅にあった空の唐櫃の歴史的価値が確認されたのです。
(文化遺産研究部長 綾村 宏)
※肩書きは執筆当時のものです。