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西トップ遺跡通信20(2020年7月20日)[Western Prasat Top 20]

西トップ遺跡に見られる動物意匠

 アンコール遺跡群の中に位置する西トップ遺跡の建造物は、砂岩という比較的柔らかい石材でできています。砂岩には様々な装飾が施されており、訪れる人の目を楽しませてくれます。西トップ遺跡は仏教寺院として機能していたと考えられているだけあり、遺跡内では仏像など多くの仏教的な図像を見ることができます。しかし実は、その他にこの遺跡に特徴的な図像として、動物の意匠が多く見られます。そこで今回は、西トップ遺跡に見られる宗教的な想像上の動物から、東南アジアで生息するリアルな動物まで、いくつかの例をご紹介します。

 まず、西トップで一番多く見られる動物はヘビです。ナーガと呼ばれ、頭が5つまたは7つあります(写真1)。アンコール王朝ではナーガの意匠を好んで用いており、ヒンドゥー教・仏教問わず多くの寺院で見ることができます。ヘビは脱皮をすることから再生の神として長く信仰され続けています。 もうひとつ、想像上の動物が意匠となった例があります(写真2)。水注のような図像ですが、注ぎ口の部分が、鳥かカメの頭に変化しています。蓋には派手な花のようなものが載り、大変特徴的な事例です。

 南祠堂には写真3のようなゾウの素描が見られます。本来は装飾があるべきではない部分に描かれ、ノミによるシンプルな線で刻まれています。これはカンボジアに生息しているゾウを描いたものと考えられますが、ゾウが飾りを身に着けている点、赤い顔料が施されている点などから、特別なゾウを表したものであると考えられます。

 実は西トップ遺跡にはこのゾウのようにラフな線であらわされた動物の図像が、祠堂の階段部分や基壇などに複数残されており、それらの拓本を取り記録しました(写真4)。この図像には角のようなものが見られるので、シカの可能性があります。これらは当時の人々の落書きのようなものかもしれませんが、大変面白い資料です。

 最後は、世界的に感染が広がっている新型コロナウィルスで話題になった動物です。写真5では、背中合わせに2頭の動物が座っています。動物の表面はウロコで覆われ、まるで恐竜のステゴサウルスのような突起が背筋に見られます。実は、この図像はセンザンコウと考えられます。センザンコウは東南アジアにも広く生息している生物ですが、哺乳類でありながら固いウロコに覆われているのが特徴です。センザンコウの意匠はアンコール遺跡群内の他の遺跡でもまれに見られます。西トップでは上半身が発見されていないのが残念ですが、貴重な事例です。

 このように、西トップ遺跡で見られる図像をみると、当時のアンコールの人々の世界観や、アンコール地域の生態系の様子も窺い知ることができます。


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写真1


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写真2


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写真3


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写真4


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写真5

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