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(191)古代の扇

綴じ方に見た当時の技術

 平城宮跡の東方官衙(かんが)地区の発掘調査で、大きなゴミ捨て穴が見つかりました。中から出土した木屑(くず)に交じって、檜扇(ひおうぎ)と呼ばれる薄板を合わせた扇が、まとまって14点も出土しました。

 檜扇は檜(ひのき)や杉の細長い薄板を重ねてつくった開閉自在の扇です。皆さんがよく知っている木や竹の骨組みに紙を貼った扇が出現するのは、平安時代の10世紀以降のこと。檜扇はそれよりも古い時代の木製の扇です。

 檜扇は閉じた状態で出土しましたが、檜扇の薄板を慎重にめくってみると、全ての薄板の先端近くに、直径1ミリほどの小さな穴が二つ開けられていました。この穴にひもを通して薄板を綴(と)じ合わせていたのです。

 一体どのように綴じたら扇が自在に開閉できるのでしょうか。綴じ穴の位置とひもの痕跡を注意深く観察し、模型で実験を重ねた結果、1本の糸で前後の薄板を左右交互の穴に通していく綴じ方をようやく復元することができました。

 それは、これまで知られていなかった新たな綴じ方の発見でした。出土した檜扇を通して、古代の知恵と技術の高さを改めて見直すことになったのです。

 このような繊細な遺物が、1300年もの間、腐らずに残る平城宮跡は、まさに地下の正倉院といえるでしょう。

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新たにわかった檜扇の綴じ方=奈良文化財研究所提供

(奈良文化財研究所主任研究員 国武貞克)

(読売新聞2018年4月17日掲載)

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