みなさんは、「木簡」と聞いてどんなものをイメージしますか? 手紙や荷札など色々あるかもしれませんが、文字が書かれた「板状の木札」という点は、おおよそ共通しているのではないでしょうか。
でも、実は、発掘調査で見つかる木簡のほとんどは「削屑(けずりくず)」と呼ばれるものなのです。クズなんて言ってはかわいそうですが、他にしっくりくる呼び名がありません。
例えるなら、かつお節を削った花がつお。中には20センチを超える長大なものもありますが、多くはせいぜい数センチの細片。薄すぎて、厚さは測定不能です。それでも、文字が認められれば立派な木簡として扱われます。
さて、削屑はどうしてできるのでしょう。昔の人は、こんな木っ端にまで文字を書いていたのでしょうか?
いえいえ、削屑は、板状の木簡の文字を消すために、表面を「刀子(とうす)」と呼ばれる小刀で削りとることによって生まれたものです。今も紙に書いた文字を消しゴムで消すとカスが出ますが、ちょうどそれに当たると言えるでしょう。
古代の役人は、筆で文字を書き、刀子で文字を消したことから、「刀筆(とうひつ)の吏(り)」と呼ばれました。書いては消し、書いては削り......。薄く小さな削屑の向こう側に、仕事や勉強に精を出し、また一枚の木簡を大切に使う、奈良時代の人びとの姿が透(す)けて見えるようです。
今年重要文化財に指定された、平城宮跡造酒司出土の削屑。
(奈良文化財研究所研究員 山本祥隆)
(読売新聞2015年10月18日掲載)