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西トップ遺跡通信10(2015年9月2日) [Western Prasat Top 10]

 西トップ遺跡ではカンボジア人調査員4名、クレーンオペレーター1名、サイトマネージャー1名、作業員16名と共に日々作業を続けています。

 今日は西トップで働いてくれている作業員さんたちの話題です。

 日本の皆さんはご存知でしょうか。カンボジアの識字率を。カンボジアの小学校卒業率を。悲しい内戦から20年が過ぎた今でも厳しい現実を突きつけられます。

 それでも、彼らはたくましく生きています。日本人の私たちより生きる力があるように感じます。私たちと共に働いている作業員さんたちも然りです。

 彼らの殆どはアンコール・トムからほど近い、アンコール・クラウ村から通っています。このクラウ村は以前からアンコール遺跡での様々な調査修復事業に携 わる作業員を送り出しています。遺跡のエキスパートを生み出していると言っても過言ではないでしょう。

 西トップで働いている16名の作業員さん(20代~40代)のうち、中学校を卒業できたのは2名、高校まで卒業できたのは0名。皆家族を養うため、やむを得ず働きに出ざるを得なかったのです。彼らは内戦真っ只中か、内戦後の混乱期に学生時代を迎えています。

 とある40代後半の作業員さんは(写真1)、ポル・ポト時代の小学校に通っていました。そのため十分な教育が受けられず、読み書きがあまり得意ではありません。けれども、彼は今や石工の大ベテラン。石を叩かせれば彼の右に出る者はいません。厳しい時代を生き抜いてきたからこそ、今の彼があるのです。

 彼らは驚くほど優秀で、物覚えが非常によく手先も器用。手先が器用なタイプは石工向き、計算が得意で立体でものを考えられるタイプは図面測量向きという風に、それぞれの特徴を活かして作業に取り組んでいます(写真2)。はじめは図面の描き方や測量の仕方を教え込みますが、今では彼ら自身で石工作業はもちろん、図面の作成や測量もできるようになりました。

 このようなプロセスは、決して短期間ではなし得ません。中・長期的に現地で調査を共にし、互いに信頼関係を築き上げなければ、おそらく一方通行の、または上から目線の調査で終わってしまい、本当の意味での「文化財保護」、「人材養成」は成立しないのではないでしょうか。

 いつの日かカンボジア人の彼らが自力で遺跡の調査ができるように、カンボジアの誇りである世界遺産アンコール遺跡群を自身の手で護れるように、そう願いながら今日も共に作業をしています(写真3)。

 

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写真1

 

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写真2

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写真3

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