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(109)誤字脱字

木簡 修正方法に苦心

 書き間違えには消しゴムで・・・。でも、墨で木に書いた場合、そんなわけにはいきません。古代の木簡のなかにも書き損じを修正した工夫のあとがみられます。

 写真〈1〉は、何の文字に見えますか? そう、「大」の字。でも、左右の払いの間にうっすらと何か見えます。左払いは、太い線と細い線が二重に。どうやら、最初に「不」と書き、上から「大」を書いたようです。「大」の線を太く目立たせたので、すっかり「大」の字です。書いた本人は、シメシメですね。

 写真〈2〉は、「登能」で、「能登」という地名の書き間違い。これはさっきのように上から書くわけにはいきません。そこで、「能」の字の右側に「●」のような記号をつけました。読む順番をひっくり返してください、という印です。

 書き間違いの他に、書き落としもあります。写真〈3〉は、紙の書類を巻きつける丸い軸棒の両端です。本来は両端に同じ内容を書くきまりですが、よく見ると左の写真は「養老七年」(723年)の「老」の字が抜けています。でもこれでは誰も気が付きそうにありませんね。

 書き間違えて、がっかりしつつも、何とかしようとするあの気持ち。きっと古代の人も同じように思ったことでしょう。

 〈注〉●はチェックマーク

 

(109)誤字脱字.jpg

 

(奈良文化財研究所アソシエイトフェロー 井上幸)

(読売新聞2015年6月28日掲載)

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