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温度や湿度に注意―文化財の展示・保管―

2014年1月

 今日は寒いなと思って窓から外を眺めると雪が舞っていました。日本には春夏秋冬があり、四季折々の景色に感動することもしばしばですが、夏は蒸し暑く、冬は寒く乾燥するという環境は、文化財には少なからず注意が必要となります。

 多くの文化財は温度や湿度にとても敏感です。材質による違いはありますが、これらが変化すると、文化財の表面にシワや亀裂が生じたり、カビやサビが発生したり、トラブルの原因になってしまうのです。たとえば、お正月に使用する機会が多い漆塗りの碗や重箱。久しぶりに取り出したらカビが発生していた、表面の艶がなくなっていたという経験をされたことがあるかもしれません。湿気の多い場所や乾燥した場所に収納していた場合に生じる現象のひとつの例ですが、このようなトラブルから文化財を守るためには、温度や湿度を適切な条件に保った環境で展示・保管をすることが求められます。

 展示・保管環境は、温度と湿度が24時間365日一定に保たれていることが理想ですが、実際には、人が出入りするために扉を開けるだけでも変化してしまい、また天候の影響を受けることも多く、なかなか一定にはなりません。さらに節電対策で電源をOFFしなくてはならない場合もあるなど状況も様々です。特に空調のON-OFF切り替え時などは、装置によっては短時間に設定した温度・湿度にしようとするため、温湿度が急激に変化します。夏に暑い屋外からクーラーの効いた屋内へ出入りすることを繰り返すと、元気な人でも回数が多くなるにつれて体調不良になってしまうように、文化財でも脆弱なものほど、わずかな変化でトラブルを引き起こしやすいので、文化財への負担を考えると急激な変化はできるだけ少なくしたいものです。

 昔はどうしていたのでしょう。文化財を保管していた場所として思いつくのが、正倉院正倉や、土蔵でしょうか。正倉の床は地面から約2.7メートルの高さにあるため、地面からの湿気の影響を減らすことができます。また宝物を唐櫃に入れるなど二重に保護されていました。土蔵は土壁の断熱性と屋根の構造を工夫することで、太陽からの熱の影響を減らし、また壁材となる木材や土による調湿作用も期待できるなど、温度や湿度の影響を緩和するための工夫がなされていたといえます。

 収蔵庫には近年では工業製品も利用されるようになっていますが、防湿、断熱、調湿など目的は同じです。そして温度や湿度を記録する装置を設置し、できるだけ急激な変化をさせずに、適切な条件に保った環境を維持しようとしています。

 文化財と温度・湿度。長期間にわたって変化させないようにする努力は、今後もずっと続いていきます。

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収蔵庫の温湿度データ

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収蔵庫内の温湿度記録装置

(都城発掘調査部 主任研究員 降幡 順子)

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