国際遺跡研究室 International Cooperation Section 概要

国際遺跡研究室について

国際遺跡研究室は、研究所が行う国際的な調査研究に関しての実施・調整・協力・情報収集を行うことを主な責務としています。 奈文研が現在実施している国際交流・協力事業には、学術共同研究や専門家交流、保存修復、専門知識・技術による支援や研修、そして文化庁の委託による文化遺産国際協力拠点交流事業などがあります。また、ユネスコ・アジア太平洋文化センター(ACCU)など他機関が行う文化財関連の国際貢献事業にも協力しています。

    現在進行中の主な事業としては、
  • ①中国社会科学院との古代都城の比較を軸とした共同研究、
  • ②中国河南省文物考古研究院との窯跡遺跡出土遺物等の共同研究、
  • ③中国遼寧省文物考古研究院との三燕文化遺物の共同研究、
  • ④韓国国立文化財研究所との日韓古代文化の形成と発展に関する共同研究及び発掘調査交流、
  • ⑤カンボジア・アンコール・シェムリアップ地域文化財保護管理機構(APSARA)と連携した西トップ遺跡における研究調査・保存修復及び人材育成事業(https://www.nabunken.go.jp/nabunkenblog/cat112/)
  • ⑥英国セインズベリー日本藝術研究所と連携した、オンラインリソースや出版物を通じた日本考古学の国際的発信、
などがあげられます。

また、文化庁委託による文化遺産国際協力拠点交流事業による技術移転・人材育成を、カザフスタン国立博物館を交流対象として実施しています。

巡訪研究室

国際遺跡研究室では、カンボジアやカザフスタンにおける国際共同事業を推進するとともに、奈文研が行っている様々な海外調査・研究・国際交流に関しての支援・調整・情報収集を行っています。また、ユネスコ・アジア文化センター奈良事務所(ACCU)の研修活動の共催・協力や、東京文化財研究所の行う国際共同研究のへの協力、文化遺産国際協力コンソーシアムに関する調整なども行っています。これらに加え、海外の著名な研究者を外国人研究員として受け入れるなど、海外の専門家や訪問者にとっての奈文研への窓口の役割も担っています。

現在奈文研が進めている国際共同研究の相手国および地域には、中国、韓国、カンボジア、カザフスタン、アメリカ合衆国、台湾、イギリス、キルギス、モンゴルなどがありますが、ここでは、上記のような様々な事業のうちから
(1)カンボジアにおける調査修復事業、
(2)カザフスタンにおける交流事業、
(3)ミャンマーにおける交流事業、
(4)イギリス・セインズベリー日本藝術研究所との共同研究事業
について、それぞれ紹介します。

(1)カンボジア・アンコール遺跡群西トップ遺跡の調査修復事業

カンボジアでは、1970年代以降の内戦によって遺跡の崩壊が進むとともに、遺跡を守るカンボジア人の多くが粛清されたことによって、荒れ果てた状態が続きました。内戦終結直後の1993年よりユネスコを中心とした国際遺跡修復活動が本格化し、奈文研も同年からアンコール遺跡群の保全に向けた共同研究事業ならびに人材養成事業を開始しました。2002年からは、王都アンコール・トム内の西トップ遺跡において、現地文化財保護機関である国立アプサラ機構(アンコール・シェムリアップ地域保存整備機構)と共同で調査研究をおこない、都城発掘調査部・建造物研究室・保存修復科学研究室などの協力を得ながら、多くの成果を上げてきました。

2008年以降遺跡の状態が不安定化したため、2011年より遺跡の本格的な調査修復に取りかかりました。特に南祠堂、北祠堂は倒壊が激しく、全面解体してから再構築を行いました。解体作業に伴う発掘調査を通じて、同遺跡の形成過程が明らかになってきました。特に、2016年の北祠堂解体中にはアンコール遺跡では初めての地下式レンガ遺構が発見され、大きな話題となりました。2019年からは中央祠堂の調査修復に取り組んでいます。

25周年を迎えたこの事業は、国からの運営費交付金だけでなく、㈱飛鳥建設、㈱タダノ、(公財)朝日新聞文化財団など多くの民間企業からのご支援を受けています。こうした産・官・学の連携のもと、国際文化協力の一助となるべく、今後とも世界遺産アンコール遺跡の保全に向けて事業を続けていきます。

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    塔が傾き倒壊の恐れがあった修復前の西トップ遺跡。

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    修復前の北祠堂(左)と修復後の北祠堂(右)。

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    北祠堂地下から発見された地下室状遺構。金製品などが焼けた状態で出土しました。

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    新しく補った石材表面の調整。ベテラン石工から若手へと技術は受け継がれていきます。

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    民間企業からご寄贈頂いた大型重機で塔の解体調査をおこなっています。

(2)カザフスタンにおける交流事業

奈文研とカザフスタンの文化財関連機関との学術交流は、2010年から始まり、文化財保存修復事業や先史時代の遺跡の調査などを行ってきました。10年目に当たる2019年4月に、文化庁から文化遺産の保護を目的とした拠点交流事業を受託し、カザフスタン共和国国立博物館を相手国拠点として、考古遺物の調査・記録・保存を目的とした交流事業を開始しました。2019年11月にワークショップ「土器の科学的研究法に関する研修」をカザフスタン共和国国立博物館にて、2020年1月には国際セミナー「カザフスタンにおける考古遺物の調査・記録・保存」およびカザフスタン人専門家に対する文化財の調査・記録・保存方法に関する研修を、奈良文化財研究所にて行いました。

カザフスタン共和国国立博物館は、中央アジア最大の博物館であり、「黄金人間」をはじめとする、極めて重要な文化財を多数、所蔵・展示しています。今後、さまざまな分野における専門家間での交流を推進していきます。

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    カザフスタン国立博物館で開催した「土器の科学的研究法に関する研修」実習の様子

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    奈文研で開催した国際セミナー「カザフスタンにおける考古遺物の調査・記録・保存」の様子

(3)ミャンマーにおける交流事業

2013年度から2018年度までの6年間、ミャンマーの宗教文化省(旧文化省)、考古・国立博物館局をカウンターパートとして、考古学分野において交流事業を行いました。ミャンマー中部の町ピイにある考古学フィールドスクールや、沿岸部の港町モーラミャインに研究員を派遣し、考古遺跡の測量実習や、窯跡から出土した陶磁器の共同調査を行いました。これらの内容については、2019年に発行した報告書に詳細を掲載しています。

ミャンマーでは2014年にピュー時代(紀元前200〜紀元後900年)の古代都市遺跡群がユネスコ世界遺産に登録され、考古遺跡の調査・保護への関心が高まっています。文化庁からの委託による交流事業は2018年度で終了しましたが、今後も研究交流を継続していく予定です。

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    ミャンマー・モン州立博物館における出土陶磁器の展示実習の様子。

(4)イギリス・セインズベリー日本藝術研究所との共同研究

奈文研と英国ノリッチに所在するセインズベリー日本藝術研究所(Sainsbury Institute for the Studies of Japanese Arts and Culture)は、2015年12月に日本考古学の国際的研究の推進事業を共同して実施することを目的に、共同研究の協定を締結しました。それ以来、日本の文化財に関するオンライン・リソースの共同開発や、2005年にドイツで開催した日本の考古学展「曙光の時代」の解説書の英語版の刊行を行いました。また例年、日英の研究者が相互に訪問し、学術交流セミナーや発掘現場・博物館などの視察を実施しています。現在は、同研究所がイーストアングリア大学ビジュアルアートセンターで計画中の特別展Arrival of Beliefへの協力を行っています。

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    奈文研とセインズベリー日本藝術研究所が共同で刊行した日本考古学の図版入り手引き書
    「An Illustrated Companion to Japanese Archaeology」

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