環境考古学研究室Environment Archaeology Section調査研究
調査・研究
環境考古学や動物考古学の調査研究
環境考古学とは、遺跡周辺の古環境を復元して、その環境と人間の相互関係を明らかにする考古学の研究分野です。単に古環境の変遷を研究するだけでなく、様々な環境の中で人々が自然に依存したり、積極的に自然を改変したりすることで適応してきた人間活動の歴史を解明することが特徴と言えます。環境考古学において、古環境を復元するために必要な植物学、動物学、土壌学、地理学など様々な関連諸分野との共同研究を行い、その成果を総合することが必要です。
例えば、環境考古学の研究事例として、トイレ遺構の土壌分析が挙げられます。トイレ遺構の土壌をフローテーション法により水洗選別すると、種実類、花粉、昆虫、魚骨、寄生虫卵などが検出されました。分析した結果、寄生虫症の蔓延、それに対処する様々な薬用植物の摂取など、当時の人々の生活環境や健康状態、食生活などが明らかとなりました
標本の収集と公開
環境考古学研究室では、動物考古学の基礎資料となる現生動物骨格標本の収集と公開を行なっています。動物考古学の最も基礎的な作業である動物骨の同定は、現生標本と形態的特徴を比較して行われます。この同定の精度を高めるためには、充実した現生動物の骨格標本が必要となります。
環境考古学研究室では、これまで多くの現生動物の骨格標本を製作・収集してきました。これらの標本から、動物考古学における多くの研究成果が得られています。環境考古学研究室が所蔵する動物骨格標本(NAC標本群)がより広く活用されるように、標本目録を順次刊行しています。
『環境考古学8 哺乳類標本リスト』埋蔵文化財ニュース136
『環境考古学9 鳥類・両生類・爬虫類標本リスト』埋蔵文化財ニュース138
環境考古学関連の研修
埋蔵文化財担当研修として、埋蔵文化財担当職員の資質向上を目的とする環境考古学の研修を行なっています。
日本の遺跡は、酸性土壌と湿潤・乾燥が交互に繰り返される環境で、基本的には有機遺物の保存には適さない場合が多いと言えます。しかし、有機質遺物が残るような遺跡や遺構も確実に存在しています。環境考古学を実施するために適切な発掘法、脆弱遺物の取り上げ、保管、分析の依頼などの技術的・実用的な方法と、遺物や遺跡の内包する情報性を適確に理解し、応用する力を身につけることを目標に研修を実施しています。
また、国際遺跡研究室やユネスコなどの人材養成に協力し、アジアを中心とした海外の研究者のために環境考古学の研修も行なっています